VE/VCO2 slopeとは?高値の理由・予後・読み方
運動を強めていくと、体の中で作られて吐き出される二酸化炭素(CO2)の量が増えていきます。VE/VCO2 slopeは、「CO2の排出が増えるのに合わせて、呼吸の量がどれくらい増えるか」を表す指標です。ここでいう「呼吸の量」は、1分間に吐き出す空気の量のことです。
slope(スロープ)は、グラフに引いた直線の「傾き」を指します。この記事では、心臓リハビリテーション(心リハ)や心肺運動負荷試験(CPX)を学び始めた方に向けて、値が高くなる仕組みと、将来の病状の見通し(予後)との関係を説明します。後半では架空の症例を使い、レポートの読み方から担当医・チームへの報告までを練習します。
1 VE・VCO2・slopeの意味を押さえる
まずは記号を確認しましょう。CO2は二酸化炭素のことです。
| 記号 | 正式名称 | 意味 |
|---|---|---|
| VE | 分時換気量 | 1分間に吐き出す空気の量 |
| VCO2 | 二酸化炭素排出量 | 1分間に吐き出すCO2の量 |
呼吸で出入りする空気の量を換気量と呼びます。VEは、その換気量を1分間あたりで表したものです。
VE/VCO2という比は、VEをVCO2で割った値です。同じ単位(L/min)にそろえて割ると、「CO2を1 L吐き出すあいだに、空気を何L吐き出しているか」を表します。
slopeは、運動中の測定値をグラフに並べて求める「直線の傾き」です。 横軸にVCO2、縦軸にVEをとり、測定値を点として打っていきます。点は多少ばらつくため、計算に使う範囲の点に最もよく合う1本の直線を求めます。この方法を「直線回帰」といい、その直線の傾きがslopeです。[6, 7] ガイドラインやレポートでは「VE vs. VCO2 slope」と書かれていることもあります。[1] 名前に「/」が入っていますが、比(VE÷VCO2)ではなく、直線の傾きを表す指標です。

図1:横軸(VCO2)で同じだけ右に進んだとき、縦軸(VE)でどれだけ上がるかを見比べます。2本の線は増え方の違いを示すための架空データで、正常・異常の区切りを示すものではありません。当サイト作成(slopeの考え方は、心臓リハビリテーション必携 Ⅲ章 p206をもとに整理)。
傾きが大きい線(実線)は、急な坂になっています。吐き出すCO2が同じだけ増えたとき、呼吸の量がより大きく増える。これが「slopeが高い」という状態です。CO2の排出が増えた分に対して、呼吸の量をより多く増やす必要があるため、slopeは「換気効率」の指標とされ、値が高いほど換気効率が低いと表現します。[7, 8]
換気の基礎は、CPXの換気指標でも確認できます。
2 なぜ心不全で高くなるのか
先に結論です。心不全でslopeが高くなる背景には、複数の仕組みが関わると考えられています。ここでは、ガイドラインでslopeに影響すると説明されている2つを取り上げます。1つは、肺の中で空気と血流の釣り合いが崩れること(換気血流不均衡)です。その結果、ガス交換に使われない呼吸(死腔換気)が増えると、心臓リハビリテーション必携では説明されています。もう1つは、呼吸を促すセンサー(化学受容体)の反応です。[1, 8]

図2:肺の一部を拡大した模式図です。空気と血流の釣り合いが崩れ、運動中に死腔換気が増え続けると、CO2を一定に保つために呼吸の量が多く必要になる流れを示しています。器具の死腔を加えた場合は、slopeは大きくは変わらず、切片やVE/VCO2比が上がります。slopeが高くなる原因のすべてを示したものではありません。当サイト作成(心臓リハビリテーション必携 Ⅰ章 p18–19・Ⅲ章 p205–206・p208・p214、2021年改訂版ガイドライン p23、CPX・運動療法ハンドブック改訂3版 p97・p118をもとに整理)。
以下、順に説明します。
肺には「空気」と「血液」の両方が必要
筋肉など体の中で生じたCO2は、血液に運ばれて肺へ届き、吐く息とともに体の外へ出ます。肺の奥には、肺胞という小さな空気の袋がたくさんあります。肺胞では、吸い込んだ空気から酸素を血液へ取り込み、血液中のCO2を吐く息へ渡しています。このやり取りをガス交換といいます。
ガス交換には、肺胞に空気が出入りすることと、その周りを血液が流れることの両方が必要です。
たとえば、肺のある部分に空気が届いていても、そこを流れる血液が少なければ、その空気はガス交換に十分使われません。肺の場所ごとに、空気の届き方(換気)と血液の流れ方(血流)の釣り合いが崩れることを、換気血流不均衡といいます。[1, 8]
呼吸の量が多くても、ガス交換に使えない部分がある
呼吸で出入りする空気のうち、酸素やCO2のやり取りに使われない分を、死腔換気(しくうかんき)といいます。鼻やのど、気管・気管支といった空気の通り道ではガス交換をしないため、死腔換気は健康な人にもあります。肺胞まで届いても、血流が少ないためにガス交換に使われない空気も、死腔換気に含まれます。[8]
死腔換気の割合が大きくなると、血液中のCO2を一定に保ちながら同じ量のCO2を吐き出すには、呼吸全体の量を多くする必要があります。[3, 8]
健康な人では、運動で呼吸が深くなり、肺を流れる血液も増えるため、死腔換気の割合は下がっていきます。[8, 9] slopeが高くなる要因の一つは、運動が強くなっても死腔換気が減らず、換気が増えるのに合わせて増え続けることです。[8, 9] 一方、死腔の量が運動中ほぼ一定の場合は、主に直線の切片(VCO2が0のときのVEの値、つまりグラフの縦軸と直線が交わる位置)が上がります。必携では、肺気腫や肺水腫がその例として挙げられています。[8] 器具で死腔を付け加えた報告でも、呼吸の量は全体に増えますが、上がるのは主に切片で、slopeは大きくは変わらないとされています。[6, 9] なお、死腔が増えると、VE/VCO2比の最低値は上がります。[8]
心不全では、運動中に心拍出量(心臓が1分間に送り出す血液の量)が十分に増えないことや、肺の中での血流の偏り、浅く速い呼吸が、死腔換気が増えることに関わると考えられています。[2, 3, 8, 9]
呼吸を促すセンサーの反応も影響する
呼吸の深さや回数は、血液中のCO2や酸素などの変化に応じて自動的に調節されています。その変化を感じ取る、センサーの役割を持つのが化学受容体です。ガイドラインでは、slopeは換気血流不均衡の大きさと、化学受容体の反応の影響を受けると説明されています。[1] 重症の心不全では、運動中に呼吸が周期的に強まったり弱まったりする変動(運動時周期性呼吸変動)がみられることがあり、その原因の一つとして、このセンサーの感受性が高まることが挙げられています。[1]
このように複数の仕組みが関わるため、slopeの値から、死腔換気の割合や心拍出量を直接求めることはできません。また、slopeが高くなるのは心不全に限りません。肺の血管や肺そのものの病気(肺血栓塞栓症、肺高血圧症、肺水腫、肺気腫など)でも、高い値を示すことがあります。[1] ただし、解剖学的死腔が増える肺の病気では、slopeよりもVE/VCO2比の最低値のほうが目立って変わることもあります。[8] もともとの病気(基礎疾患)や、診察・ほかの検査の結果と合わせて考えます。
3 minimumとの違いと数値の目安
slopeは傾き、minimumは比の最低値
minimum(ミニマム)は「最小」という意味です。minimum VE/VCO2は、運動中に求めたVE/VCO2比のうち、いちばん低い値です。ガイドラインでは「VE/VCO2最小値」と書かれています。[1]
最低値を読むときは、測定値をどのように平均したか(平均化の方法)も確認します。ブレスバイブレス(1回の呼吸ごとの測定)では、値が呼吸ごとに細かく変動します。そのため、数呼吸ぶんを平均しながら見ることが多い、と心臓リハビリテーション必携に書かれています。[8] Murataらの研究では、1呼吸ごとに測定したデータを30秒平均にして、その中で最も低い値をminimumとしています。[6] つまり、1回の呼吸だけで記録された値の中から、いちばん低いものを拾っているわけではありません。minimumを前回値などと比べるときは、平均化の方法もそろっているかを確かめます。

図3:同じデータから、slopeとminimumを別々の計算で求めます。学習用の架空データです。上段で色の濃い点が、傾きの計算に使うデータ範囲の一例です。灰色の点のように、傾きが急になった後のデータまで含めると、slopeは大きくなります。第5節で説明するRCPの位置を示したものではありません。当サイト作成(心臓リハビリテーション必携 Ⅲ章 p206–207、Murataら 2022 p80・p82をもとに整理)。
| レポートの表示 | 何を見ている指標か |
|---|---|
| VE/VCO2 slope | VEとVCO2の関係を表す直線の傾き |
| VE/VCO2比 | ある時点・測定区間でのVE÷VCO2 |
| minimum VE/VCO2 | 運動中のVE/VCO2比の最低値 |
求め方が違うため、slopeとminimumは置き換えられません。 slopeはslopeの標準値や前回のslopeと、minimumはminimumの標準値や前回のminimumと比べます。
数字で確かめる:比と傾きが違う理由
以下は学習用の架空データです。両方の量をL/min(1分間あたりのリットル)でそろえています。
| 項目 | 測定点A | 測定点B |
|---|---|---|
| VCO2(L/min) | 1.0 | 1.5 |
| VE(L/min) | 30 | 40 |
| VE/VCO2比 | 30 | 約26.7 |
この2点を結ぶ直線の傾きは、VEの増加量÷VCO2の増加量=(40−30)÷(1.5−1.0)=20です。A点の比(30)やB点の比(約26.7)とは違う値になります。
この違いを生むのが、直線の切片(VCO2が0のときのVEの値)です。この2点を通る直線は「VE=20×VCO2+10」で、切片は10です。比は「傾き+切片÷VCO2」になるため、切片がある限り、比と傾きは同じ値になりません。slopeとminimumの値が離れる理由の一つも、この切片です。[6]
実際のslopeは、計算に使う範囲を決め、その範囲内の多くの点に最もよく合う直線から求めます。また、この2点だけでは、検査全体のminimumは決められません。
「いくつが目安?」は年齢・性別・検査方法とセットで
ガイドラインには、日本人が自転車エルゴメータ(ペダルの重さを変えられる検査用の自転車)で検査を受けたときの標準値が、男女別の式で示されています。これらの値は年齢と性別の影響を受けます。[1] 式のもとになったのは、健康な日本人を対象にした研究です。[1, 4] 表8の式では、slopeもminimumも、男女とも年齢が高いほど高い値になります。[1] 心臓リハビリテーション必携では、slopeは年齢とともに高くなり、男性より女性で高い値を示すとされています。[8]
たとえば、ガイドラインの式に60歳・男性を当てはめると、次の値になります。
| 指標 | 標準値の計算例(60歳男性) |
|---|---|
| VE/VCO2 slope | 約27.0 |
| minimum VE/VCO2 | 約28.1 |
標準値は、同じ年齢・性別の健康な人と比べるための目安です。 「27.0を超えたら異常」と判定する上限値ではなく、将来の死亡や入院の起こりやすさを分ける境目(予後のカットオフ値)でもありません。
なお、心臓リハビリテーション必携では、年齢・性別を分けない大まかな目安として、slopeはおよそ30以下、minimumは28以下が正常とされています。[8] ただし、年齢が高い人では、健康な人でもminimumが28を超えることがあります(ガイドラインの式では、70歳男性で約29.3)。[1] ガイドラインの標準値とは考え方が違うため、どちらの基準と比べたかも記録しておくと、後で読み返すときに混乱しません。
標準値を計算する方法と、使える条件を確認する
2021年改訂版ガイドラインの表8に示された、男性の式を用いた計算です。[1]
- slope:0.080×60+22.17=26.97
- minimum:0.118×60+21.03=28.11
本文では小数第1位に四捨五入しています。実際のレポートでは、slopeの計算に使ったデータの範囲、運動の方法(自転車エルゴメータかトレッドミルか)、基準となった人たちの年齢・性別などが、比べたい条件に合っているかを確認します。
4 予後との関係と、臨床での使い方
高いslopeは、今後のリスクを考える材料になる
予後とは、その後の病状の経過や、死亡・入院などの結果の見通しのことです。心不全の患者さんを調べた研究では、slopeが高いグループほど、その後の死亡や心不全の悪化による入院が多いという関連が報告されています。[7] ガイドラインにも、VE vs. VCO2 slopeは、心不全の重さや予後と関係する指標として、peak VO2と並べて予後の評価に使われる、という記載があります。[1] 症状やほかの検査結果と合わせて、今後の経過を考える材料の一つになります。
これは患者さんの集団でみられた傾向です。目の前の患者さんの今後を、この数値だけで言い切ることはできません。 また、slopeが高いこと自体が病状を悪化させる原因だと示した研究でもありません。
研究を確認する:どんな患者の、何のリスクを調べた?
Gongらは、1つの病院でCPXを受けた心不全患者1,347人の記録をさかのぼって調べました。検査後2年以内に、201人に死亡または心不全の悪化による入院がありました(死亡65人、入院136人)。死亡の原因は問わず、両方が起きた場合は先に起きたほうを数えています。slopeが高いグループほど、これらが起きるリスクが高いという関連がみられました。[7]
対象は、CPXのために紹介されてきた患者さんで、著者らは、このような対象を選んだことによる偏り(選択バイアス)を限界の一つに挙げています。また、心不全に伴うもの以外の肺高血圧症や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、心不全以外でslopeに関わる病気の影響は考慮できていない、と述べています。
この研究のslopeは、ペダルに負荷をかけずにこぐ「空こぎ」の開始から運動終了までのデータで計算しています(呼気ガスのデータは10秒ごとに平均)。なお、この研究で使われた換気の指標はslopeで、minimumは扱っていません。ほかの研究や検査結果と比べるときも、どの範囲で計算したかを確認します。
peak VO2とslopeを両方見る理由
peak VO2(最高酸素摂取量)は、検査中に、1分間あたりで体へ取り込めた酸素の量のうち、最大の値です。体重1 kgあたりで表すことが多く、単位はmL/kg/minです。どれくらいの強さの運動まで行えるか(運動耐容能)を評価する、最も客観的な指標とされています。[1, 5]
| 指標 | 結果から知りたいこと |
|---|---|
| peak VO2 | 今回の検査で、1分間に取り込む酸素の量がどこまで増えたか |
| VE/VCO2 slope | 吐き出すCO2が増えたとき、呼吸の量がどれくらい増えたか |
2つを合わせて見ると、「検査でどこまで運動できたか」と「そのあいだに、CO2の排出に対して呼吸の量がどう増えたか」の両方を確認できます。
peak VO2は、本人がどこまで頑張れたかによって低めに出ることがあります。[1, 8] 一方、心臓リハビリテーション必携の求め方では、slopeは最大負荷より手前のAT(嫌気性代謝閾値。このあと説明します)くらいまでの運動ができれば算出できる、客観的な指標とされています。[8] 2025年改訂版 心不全診療ガイドラインには、peak VO2が予後と関連する指標であることに続けて、検査で最大負荷まで運動できなかった場合は、peak VO2だけでなくslopeなどの指標も見ながら判断する、という記載があります。[5]
検査が「足の疲れ」で終わったときは、その理由に加えて、本人の運動の限界にどこまで近づけたか(負荷到達度)も確認します。手がかりは、検査中の症状やRER(呼吸交換比。ガイドラインでは「ガス交換比」とも書かれます)です。RERは「吐き出したCO2の量÷取り込んだ酸素の量」で求め、ガイドラインでは負荷の程度を表す指標とされています。負荷が不十分な場合、peak VO2の値は信頼性が低くなります。[1] 詳しくは、peak VO2とはをご覧ください。
診療や心リハでは、何に活かす?
| 場面 | 次にすること |
|---|---|
| 今後のリスクを考える | peak VO2、症状、ほかの検査結果(血液検査や心エコーなど)と合わせて、今後の経過を考える材料の一つにする |
| 息切れの背景を考える | 平地の歩行や階段など、どんな動作で息切れが出るかを聞き取り、心不全や肺の病気などとの関係を考える |
| 運動を計画する | 当日の体調とCPX全体の結果を確認し、ATや運動中の血圧・心拍数・症状の変化を参考に、運動してよいか、どのくらいの強さにするかを検討する |
表は、ガイドラインと原著論文をもとにした学習用の整理です。[1, 5, 7]
AT(嫌気性代謝閾値)は、運動の強さを決める(運動処方)ときに使われます。心不全の患者さんが日常生活で過負荷にならずに行える活動の強さの目安になる、とされています。[5] 運動を強めていくと、酸素の取り込みの増え方に対して、CO2の排出の増え方が大きくなり始める点があり、CPXではこの変化などからATを推定します。[1] ガイドラインでは、ATなどをもとに運動の強さ(ワット数)を決める方法が示されています。[1, 5]
再検査で下がったら、どう読む?
同じ条件で計算したslopeが前回より下がっていれば、CO2の排出が増えたときの呼吸の量の増え方が小さくなった(換気効率がよくなる方向の変化)と読めます。ただし、心不全診療ガイドラインには、HFrEF(左室駆出率が低下した心不全)の患者で、運動療法前後のpeak VO2の改善を検査間誤差を考慮して判定した報告が紹介されています。[5] slopeの変化も、数値だけで判断せず、症状とセットで確かめます。
確かめるのは、「同じ階段での息切れが軽くなったか」「日常で動ける量が増えたか」「peak VO2も上がったか」などです。
なお、slopeが下がったからといって、将来の死亡や入院のリスクが下がったとはいえません。 先ほどの予後研究は、ある時点のslopeとその後の経過との関連を調べた観察研究で、治療でslopeを下げると予後がよくなるかを確かめた研究(介入研究)ではないためです。[7]
5 症例で練習:値を確認し、読み取り、報告する
ここでは学習用の架空症例で、レポートの読み方と報告の流れを練習します。数値は診断基準や治療効果を示すものではありません。
① まずは、手元のレポートを読む
| 項目 | 今回の記載 |
|---|---|
| 対象・方法 | 60歳男性、心不全、自転車エルゴメータ |
| VE/VCO2 slope | 36 |
| minimum VE/VCO2 | 30 |
| peak VO2 | 15.0 mL/kg/min(体重1 kgあたり、1分間の酸素摂取量) |
| 終了理由 | 足の疲れ |
| レポートからはわからない情報 | 算出区間・平均化の方法・マスクかマウスピースか・負荷到達度(RERなど) |
slopeの36は直線の傾き、minimumの30は比の最低値です。数字の上では、第3節の標準値の計算例(60歳男性:slope約27.0、minimum約28.1)より高い値です。ただし、まずは「どう計算した値か」と「比べる標準値や前回値も同じ方法で求めたものか」を確認します。それがわかるまでは、どれくらい高いのかを判断しません。
算出区間は、「検査のどこからどこまでのデータで傾きを計算したか」です。平均化の方法は、「測定値を何秒ごと(または何呼吸ごと)にまとめて平均したか」です。レポートに書かれていなければ、検査の担当者に聞くか、解析ソフトの設定を確認します。マスクかマウスピースか(器具の死腔)によってもVE/VCO2比や最低値が変わるため、前回と同じかを確かめます。[8, 9]
算出区間はどこを見る? RCPも確認する
RC point(RCP:呼吸性代償開始点)は、運動を強めていく途中で、血液が酸性に傾くのを抑えるために、CO2の排出の増え方に対して、呼吸の量がさらに大きく増え始める点です。VE/VCO2比が上がり始めることなどを手がかりに判定します。[1, 6]
心臓リハビリテーション必携では、RC pointまでのデータを直線で近似する方法が説明されています。RC point以降はCO2以外の刺激も呼吸を強めるため、最大負荷までのデータを含めるとslopeは急になる(値が大きくなる)と注意されています。[8] Murataらの研究でも、RCPより前のデータでVEとVCO2の直線関係を求め、その傾きをslopeとしています。[6] 一方、前述のGongらの予後研究では、空こぎ開始から運動終了までのデータを使っています。[7] 同じ「VE/VCO2 slope」という名前でも、計算に使う範囲が研究や解析の設定によって違うことがあります。 比べる相手が前回値・標準値・研究の基準のどれであっても、事前に計算の範囲を確認し、同じ範囲で求めたslopeどうしで比べましょう。運動終了までを含める方法では、RCP以降の運動が長いほど、値が高く出やすくなります。[8, 9] 詳しくは、RCPとはをご覧ください。
② 条件と前回値を確認できたら、比較する
検査の担当者に確認したところ、機器(マスクかマウスピースかを含む)・運動の強さを上げていく手順(プロトコル)・計算に使った範囲・平均化の方法が前回と同じだったとします。この架空例では、slopeは前回・今回とも空こぎ開始から運動終了までのデータで計算し、minimumも同じ平均化の方法で求めています。限界にどこまで近づけたか(負荷到達度)にも、大きな違いはありませんでした。そこで、3か月前の結果と、本人から聞き取った症状を並べます。
| 比較する情報 | 前回(3か月前)→ 今回 |
|---|---|
| VE/VCO2 slope | 31 → 36(上昇) |
| minimum VE/VCO2 | 28 → 30(上昇) |
| peak VO2 | 16.0 → 15.0 mL/kg/min(低下) |
| 日常生活 | 同じ階段を休まず上れた → 息切れのため途中で休むことが増えた |
この段階で言えるのは、slopeは上がり、peak VO2は下がり、本人も同じ階段で息切れのため休むことが増えたと話している、ということです。検査値と日常の症状の両方を担当医・チームに伝え、状態を改めて調べるきっかけにします。
原因を考えるには、検査当日の体調や、くり返し検査したときの値のばらつき、医師の診察やほかの検査(血液検査・心エコーなど)の結果も必要です。[1, 5]
③ 「事実・解釈・相談」を分けて報告する
報告するときは、「確認できたこと(事実)」「そこから考えたこと(解釈)」「チームに相談したいこと(相談)」に分けると伝わりやすくなります。この症例では、次のように整理できます。
| 報告の要素 | 伝える内容 |
|---|---|
| 事実 | 前回と同じ検査・解析の条件で、slopeは31→36に上昇、peak VO2は16.0→15.0 mL/kg/minに低下。負荷到達度に大きな違いはない。本人は、同じ階段で息切れのため途中で休むことが増えたと話している |
| 解釈 | 検査値は前回より悪い方向に変化しており、日常生活での息切れの増加とも合っている。ただし、くり返し検査したときのばらつきの範囲かどうかや、原因が何かは、これだけでは判断できない |
| 相談 | 診察やほかの検査で状態を改めて確認してもらい、運動療法を続けてよいか、運動の強さを調整するかを相談したい |
担当医・チームへの報告例
前回と同じ条件(空こぎ開始〜運動終了で計算、平均化の方法も同じ)で比べると、VE/VCO2 slopeは31から36に上がり、peak VO2は16.0から15.0 mL/kg/minに下がっていました。限界への近づき方(負荷到達度)に大きな違いはありません。また、患者さんからは、同じ階段で息切れのため途中で休むことが増えたと聞いています。診察や検査で状態を改めて確認していただき、運動療法を続けてよいか、強さを調整したほうがよいかを相談させてください。
「slopeが36でした」と数値だけを伝えるのではなく、前回との差・症状の変化・確認した計算条件・相談したいことまで伝えると、チームで方針を検討しやすくなります。
④ 次のレポートで使う、5行メモ
前回と計算条件が違っていたら、同じ条件で計算し直せるかをまず確認します。そろえられない場合は、条件の違いを記録に残したうえで、比べ方に注意して読みます。測定の進め方と、データを処理して結果を読む流れは、CPX実技で確認できます。
まとめ
- slopeは、吐き出すCO2が増えたときに、呼吸の量がどれくらい増えるかを表し、値が高いほど換気効率が低いことを示します。高くなる背景には、換気血流不均衡や、運動中に死腔換気が増え続けること、化学受容体の反応などが関わると考えられています。
- slope(直線の傾き)とminimum(比の最低値)は、求め方が違う指標です。ガイドラインの標準値は健康な人と比べるための目安で、「この値を超えたら異常」「将来のリスクが高い」と決める境目ではありません。
- 心不全の今後の経過を考えるときは、peak VO2や症状も合わせて見ます。レポートは計算条件を確かめてから前回値・症状と比べ、「事実・解釈・相談」に分けてチームに伝えます。
CPX全体を復習したい方は、CPXとはから各指標をたどってみてください。
理解確認問題
架空の数値を使った学習用のオリジナル問題です(学会の試験問題ではありません)。この問題は非公式であり学会とは無関係です。
問1
60歳男性が自転車エルゴメータでCPXを受け、レポートに「VE/VCO2 slope=32」「minimum VE/VCO2=28」と書かれていました。読み方として、最も適切なものはどれですか。
- minimum(28)のほうがslope(32)より低いので、換気効率はslopeが示すほど悪くないと判断する
- slope(32)を、minimumの標準値の計算例(約28.1)と比べて、高いと判断する
- slopeはslopeの標準値の計算例(約27.0)と、minimumはminimumの標準値の計算例(約28.1)と、それぞれ比べる
- slopeが標準値の計算例(約27.0)を超えているので、予後が悪いと判断する
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正解:3
slopeは「VEとVCO2の関係を表す直線の傾き」、minimumは「運動中のVE/VCO2比の最低値」で、求め方が違う指標です。指標名を確かめて、それぞれの標準値と比べます(比べる前に、計算の条件も確認します)。
- 1:slopeとminimumは別の指標なので、2つの大小を比べても換気効率の良し悪しは判断できません。
- 2:slopeをminimumの標準値と比べるのは、物差しの取り違えです。
- 4:標準値は健康な人と比べるための目安で、予後を分ける境目(カットオフ値)ではありません。
問2
心リハの経過で再検査を行ったところ、slopeが前回の36から33に下がっていました。前回は「空こぎ開始から運動終了まで」、今回は「RCPまで」のデータで傾きを計算していました(平均化の方法は同じ)。まず行うこととして、最も適切なものはどれですか。
- slopeが3下がったので、換気効率がよくなったと判断する
- 平均化の方法が同じなので、そのまま前回値と比べる
- 前回と同じ範囲で計算し直せるかを、検査の担当者や解析ソフトで確認する
- RCPまでの範囲で求める方法が正しいので、今回の33だけを使い、前回値とは比べない
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正解:3
傾きを計算した範囲が違うと、それだけで値が変わることがあります。たとえば、RCP(RC point)以降のデータまで含めると、slopeは急に(大きく)なります。前回値と比べるには、まず同じ範囲で計算し直せるかを確認します。
- 1:計算の範囲が違うままでは、下がった理由が状態の変化なのか、計算方法の違いなのか区別できません。
- 2:平均化の方法がそろっていても、計算の範囲が違えば比べられません。
- 4:RCPまでの範囲は、心臓リハビリテーション必携などで説明されている求め方です。RCP以降まで含めるとslopeは高く出やすくなりますが、予後研究には運動終了までを使うものもあります。標準値や研究の基準と比べるときは、その基準と同じ範囲で求めた値を使います。今回の値だけを使うのではなく、まず前回と同じ範囲で計算し直せるかを確認します。
問3
前回と同じ検査・解析の条件で再検査を行ったところ、slopeは31→36、minimum VE/VCO2は28→30、peak VO2は16.0→15.0 mL/kg/minでした。限界にどこまで近づけたか(負荷到達度)は前回と同じくらいで、終了理由は前回と同じ「足の疲れ」です。患者さんは「同じ階段で、息切れのために途中で休むことが増えた」と話しています。このときの対応として、最も適切なものはどれですか。
- slopeが上がったので心不全が悪化したと判断し、運動療法を中止する
- 検査値と症状の変化を整理して担当医・チームに伝え、状態の再確認と、運動療法を続けてよいか・強さを調整するかを相談する
- 5程度の変化は検査のばらつきの範囲なので、記録だけして次の検査まで様子をみる
- 終了理由が「足の疲れ」なので負荷が不十分だったとみなし、今回の結果は使わない
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正解:2
前回と同じ条件で計算され、負荷到達度も同じくらいであることを確認できています。そのうえで、検査値(slopeの上昇・peak VO2の低下)と日常生活の症状(階段での息切れの増加)の両方に変化があります。確認できたことを整理して伝え、診察やほかの検査で状態を改めて確認してもらい、運動療法の方針を相談するのが適切です。
- 1:数値の変化だけでは原因はわからず、悪化と決めることも、ひとりで運動療法を中止と決めることもできません。
- 3:この変化が検査のばらつきの範囲かどうかは、この情報だけでは判断できません。症状も変わっているため、記録だけで済ませず共有します。
- 4:負荷到達度が前回と同じくらいであることを確認できているので、終了理由だけで結果を使わない理由にはなりません。
参考文献・出典
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン. 第2章3.2–3.6、図4、表8(p23–24).
- Wada O, et al. Importance of abnormal lung perfusion in excessive exercise ventilation in chronic heart failure. Am Heart J. 1993;125:790–798.
- Sullivan MJ, et al. Increased exercise ventilation in patients with chronic heart failure: intact ventilatory control despite hemodynamic and pulmonary abnormalities. Circulation. 1988;77:552–559.
- Ashikaga K, et al. Ventilatory efficiency during ramp exercise in relation to age and sex in a healthy Japanese population. J Cardiol. 2021;77:57–64.
- 日本循環器学会/日本心不全学会. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. 7.2.1、7.2.3–7.2.4(p50–51).
- Murata M, Kobayashi Y, Adachi H. Examination of the relationship and dissociation between minimum minute ventilation/carbon dioxide production and minute ventilation vs. carbon dioxide production slope. Circ J. 2022;86:79–86.
- Gong J, et al. Usefulness of ventilatory inefficiency in predicting prognosis across the heart failure spectrum. ESC Heart Fail. 2022;9:293–302.
- 日本心臓リハビリテーション学会. 心臓リハビリテーション必携(2022年増補改訂版). Ⅰ章 図14(p18–19)、Ⅲ章 p189、「VE vs. VCO2 slope」図30・図31(p205–208)、表8(p214).
- 安達仁(編著). CPX・運動療法ハンドブック 改訂3版. 東京: 中外医学社; 2015. 第5章 p96–100、第6章 図6-8(p118).
よくある質問
Q. VE/VCO2 slopeとminimum VE/VCO2はどう違いますか?
A. slopeは、運動中のVE(分時換気量)とVCO2(二酸化炭素排出量)の関係を直線で表したときの傾きです。minimum VE/VCO2は、運動中に求めたVE/VCO2比のうち、いちばん低い値です。求め方が違うため、slopeはslopeの標準値や前回のslopeと、minimumはminimumの標準値や前回のminimumと比べます。slopeの計算に使うデータの範囲は研究や解析の設定によって異なるため、標準値や前回値と比べるときは事前に範囲を確認し、同じ範囲で求めた値どうしで比べます。
Q. VE/VCO2 slopeの標準値はいくつですか?
A. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインには、日本人が自転車エルゴメータで検査を受けたときの標準値が、年齢と性別ごとの式で示されています。たとえば60歳男性ではslopeが約27.0、minimum VE/VCO2が約28.1です。これは健康な人と比べるための目安で、超えたら異常と判定する上限値や、予後を分ける境目ではありません。なお、心臓リハビリテーション必携では、大まかな目安としてslopeはおよそ30以下、minimum VE/VCO2は28以下が正常とされています。
Q. VE/VCO2 slopeが高いと予後が悪いのですか?
A. 心不全では、slopeが高いグループほどその後の死亡や心不全の悪化による入院が多いという関連が報告されています。ただし、これは集団でみられた傾向で、目の前の患者さんの予後を数値だけで決めることはできません。2025年改訂版 心不全診療ガイドラインには、検査で最大負荷まで運動できなかった場合は、peak VO2だけでなくslopeなどの指標も見ながら判断する、という記載があります。症状やpeak VO2、ほかの検査結果と合わせて考えます。
この記事を書いた人
心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士
循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。
- 理学療法士(臨床経験10年以上)
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 地域糖尿病療養指導士
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