CPX実技|測定・解析・運動処方のポイント
実技講演で最も印象に残ったのは、CPXはペダルをこぎ始める前から始まっているという点でした。
CPX(心肺運動負荷試験)を学び始めると、ついATやpeak VO2の数値に目が向きます。しかし、電極、マスク、エルゴメータ、患者説明、プロトコルのどこかに問題があれば、解析の前提そのものが崩れます。数字を読む前に、信頼できる条件で測れたかを見る。この順番が大切です。
この記事では、2026年7月18日の第32回日本心臓リハビリテーション学会学術集会「第100回記念運動処方講習会2」で聴講した「心肺運動負荷試験実施法」と「運動処方」の内容をもとに、CPXの実施・解析・処方を一つの流れに整理します。講習会の開催情報は学会公式プログラムで確認できます。
講演内容を臨床の流れに当てはめると、押さえたい点は4つです。
- CPXは、ペダルをこぎ始める前の観察・装着・説明・設定から始まる
- ランプ負荷は一律にせず、漸増負荷が8〜12分程度になることを一般的な目安として個別に設定する
- AT・RCP・peak VO2は単独の数値で決めず、呼気ガス、心電図、血圧、症状、測定条件を同じ時間軸で読む
- 運動終了後も、循環応答や歩容が安定するまでが安全管理の範囲に含まれる
この記事は学習用です。実際の検査では、所属施設の手順、医師の指示、使用機器の取扱説明書を優先してください。
最初に覚えたい略語
| 用語 | まずはこう理解する |
|---|---|
| WR | 仕事率。自転車エルゴメータの負荷をW(ワット)で表す |
| AT | 運動中に代謝と換気の変化が現れる点。運動処方を考える基準の一つ |
| RCP | ATより高い強度で、換気がさらに増える変化が現れる点 |
| peak VO2 | 検査中に得られた最も高い酸素摂取量。運動耐容能の代表的な指標 |
| ΔVO2/ΔWR | 負荷を上げたときに、VO2がどの程度増えたかを見る指標 |
| O2 pulse | VO2を心拍数で割った値。1回拍出量そのものではなく、複数要因を含む指標 |
| RER | VCO2をVO2で割った比。負荷の十分性を考える材料の一つ |
| PETO2・PETCO2 | 呼気終末のO2・CO2分圧。ATやRCPを判断するときに変化を見る |
検査前の準備がデータの土台になる
入室時から患者さんを観察する
CPXの観察は、心電図を接続してからではなく、患者さんが検査室へ入る時点から始まります。
- 歩容と姿勢は安定しているか
- 顔色や反応に普段との違いはないか
- 胸部症状、息切れ、めまい、下肢症状はないか
- 介助や転倒予防が必要ではないか
入室時の様子を把握しておくと、運動後の歩容や反応と比較できます。検査値だけでなく、検査前後で何が変わったかを見るための基準になります。

心電図・血圧・SpO2は「運動中」を想定して装着する
運動中の心電図には体動や筋活動によるノイズが入りやすいため、電極位置だけでなく皮膚処理、リード線の固定、座位での波形確認まで行います。誘導法や電極配置は、自施設の手順と機器の取扱説明書に従います。
血圧カフは測定しやすく、チューブがペダルや身体に干渉しないようにします。SpO2センサーは、血圧測定や把持動作の影響を受けにくい部位へ装着します。血圧カフと干渉しないかまで、実際の測定動作で見ておきます。
装着を始める前に、次の情報も見ておきます。
| 確認項目 | 見る理由 |
|---|---|
| 検査目的と患者背景 | どの反応を評価し、どこまで負荷するかを共有するため |
| 依頼後の症状変化 | 依頼時と検査当日の状態が同じとは限らないため |
| 安静時の血圧・心拍数・心電図 | 開始前の安全確認と運動中の比較に使うため |
| 内服薬 | β遮断薬などが心拍応答に影響しうるため |
| 植込みデバイスの情報 | ペーシングやレートレスポンスの設定を解釈に含めるため |
植込みデバイスのレートレスポンスは、センサーの種類や運動様式によって反応が異なる場合があります。自転車エルゴメータで心拍数が上がりにくいからといって、すぐに病態だけで説明せず、設定や運動様式との関係も確かめます。
マスク装着前に説明を終える
呼気ガスマスクを装着すると会話がしにくくなります。装着前に、負荷の進み方、症状の伝え方、Borgスケール、終了したいときの合図を共有します。
マスクは顔に合うサイズを選び、明らかなリークがないかを見ます。データが不自然なら、病態の解釈へ進む前に、マスクリーク、咳、深呼吸、装着直後の過換気を疑います。通常の呼吸へ戻り、ベースラインが落ち着くのを待って測定を進めます。
プロトコルと測定中の見方
ランプ負荷は個別に設定する
ランプ負荷の時間は、8〜12分程度が一般的な目安です。短すぎるとAT付近の変化を追いにくく、長すぎると心肺系より先に脚が疲れることがあります。
ただし、全員を同じ増加量にするわけではありません。年齢、体格、身体機能、日常の活動量、疾患、検査目的から、その人に合う負荷の上げ方を考えます。
| 設定 | 起こりうる問題 |
|---|---|
| 増加量が小さすぎる | 検査が長くなり、心肺系より先に局所疲労が制限になる |
| 増加量が大きすぎる | AT付近の変化を追いにくく、短時間で終了する |
| 患者に合わせた増加量 | 呼気ガスと循環応答を連続的に観察しやすい |
安静、無負荷または低負荷、ランプ負荷、回復期の時間は、検査目的と施設プロトコルに合わせます。周期性呼吸など変動が大きい場合は、短い平均値だけを切り取らず、経時変化まで追います。
呼気ガスだけで結論を出さない
運動中は、呼気ガス、心電図、血圧、SpO2、自覚症状、ペダリングを同じ時間軸で見ます。
たとえば、仕事率が増えているのにVO2の増加が鈍い場合、ΔVO2/ΔWRの低下だけで心筋虚血や心拍出量低下を断定することはできません。O2 pulseも、酸素摂取量を心拍数で割った複合指標であり、1回拍出量そのものではありません。
確認する順序は次のとおりです。
- マスクリーク、校正、ペダリングなどの測定条件に問題がないか
- 同じ時点で心電図、血圧、心拍数、自覚症状がどう変化したか
- ΔVO2/ΔWR、O2 pulse、換気指標のトレンドが互いに整合するか
- 患者背景を含めて、考えられる要因を絞る

単独の指標を診断名に直結させず、複数の反応から仮説を組み立てます。換気の読み方はCPXの換気指標|VE・死腔・呼吸の読み方で詳しく整理しています。
AT・RCP・peak VO2を解析する
ATとRCPの位置関係
AT(嫌気性代謝閾値)とRCP(呼吸性代償点)は、運動強度が増す途中で観察される異なる変化です。ATは運動処方を考える基準の一つで、RCPは通常ATより後に現れ、換気がさらに増える段階として捉えます。

ATを「楽に続けられる絶対的な境界」、RCPを「もう続けられない点」と決めつけることはできません。症状、病態、服薬、運動様式によって自覚的なきつさとの関係は変わります。
ATは複数の変化を照合する
ここは少し難しいので、まず流れだけを押さえます。運動負荷が増えると乳酸が増え始め、体が酸を処理する過程(重炭酸による緩衝)で追加のCO2が生じます。その結果、VCO2がVO2に対して相対的に増えます。V-slopeは、この関係の変化からATを検討する方法です。

ただし、V-slopeの一点だけで決めるのではなく、次の変化を照合します。
| 指標 | AT付近で確認する変化 |
|---|---|
| V-slope | VCO2とVO2の関係の傾きが変化するか |
| VE/VO2 | 上昇し始めるか |
| VE/VCO2 | 同じ時点では大きく上昇していないか |
| PETO2 | 上昇へ転じるか |
| PETCO2 | AT付近ではおおむね維持され、その後の変化と整合するか |
| 呼吸パターン | 咳、深呼吸、過換気などによる一時的な変化ではないか |
RCPでは、VE/VCO2の上昇やPETCO2の低下など、換気がさらに増える変化を組み合わせます。ATとRCPはいずれも、生体信号の揺らぎや判定者間差がありえます。判断が難しい場合は経験のある判定者とすり合わせ、自施設で決めた方法を統一して使います。
VE/VCO2 slopeなどの回帰範囲や平均化時間は、ソフトウェアと解析方法によって異なります。自動解析値だけで終わらず、計算に使われた区間と元のトレンドを見直します。

平均化の設定を変えると、同じデータでもグラフの見え方が変わります。見やすさと、変化点を読み取れることは別だという前提で設定を確認します。
peak VO2は「十分に負荷できたか」とセットで読む
臨床のCPXではVO2の明確なレベリングオフが得られないこともあるため、peak VO2として扱うことが一般的です。解釈するときは、数値に加えて次を確認します。
- 終了理由は呼吸苦、下肢疲労、胸部症状、安全上の判断のどれか
- RER、心拍応答、自覚症状は努力の程度と整合するか
- 心電図や血圧の変化によって早く中止していないか
- マスクリークやペダリング不良など測定上の問題がなかったか
負荷が不十分であれば、peak VO2が本来の運動耐容能を過小評価している可能性があります。体重当たりの値は体格、とくに肥満の影響も受けるため、絶対値、予測値比、体格、臨床背景を合わせて読みます。
運動処方と回復期にどうつなげるか
ATの仕事率をそのまま処方しない
ランプ負荷では、仕事率を上げてから酸素摂取量が応答するまでに時間差があります。そのため、ATを検出した時点で表示される仕事率を、そのまま定常負荷の処方へ置き換えると強すぎる場合があります。
2021年改訂版の心血管疾患リハビリテーションガイドラインでは、ランプ負荷でATを求めた場合、ATの約1分前の仕事率を処方の候補とする考え方が示されています。ただし、これは機械的に決めるための式ではありません。
実際の運動処方では、次を合わせて調整します。
- 心電図、血圧、心拍数の反応
- 胸部症状、呼吸苦、下肢疲労、Borgスケール
- β遮断薬などの服薬と植込みデバイス
- エルゴメータ、歩行、トレッドミルなど運動様式の違い
- 日常生活や運動療法での再現性と安全性
CPXは処方を決める重要な材料ですが、一つの数値だけで最終決定するものではありません。
回復期と退出時まで観察する
運動を止めた直後も、血圧低下、不整脈、症状、ふらつきが現れる可能性があります。回復期は負荷の付属時間ではなく、検査の一部です。
- 心電図、血圧、心拍数、SpO2が回復しているか
- 胸部症状、息切れ、めまい、下肢症状が残っていないか
- 立位や歩行でふらつきがないか
- 入室時の歩容や反応と比べて変化がないか
終了基準や観察時間は、自施設の手順と医師の指示に従います。患者さんが安全に退出できる状態まで確認して、CPXを終えます。

このチェックリストは学習用です。検査室で使う場合は、そのまま運用せず、必ず自施設の手順や機器に照らして内容を確認してください。
まとめと理解確認問題
- CPXの質は、入室時の観察、装着、説明、プロトコル設定から決まる
- 漸増負荷8〜12分は一般的な目安であり、患者背景と検査目的に合わせて個別に設定する
- AT、RCP、peak VO2、ΔVO2/ΔWR、O2 pulseは単独で原因や処方を決めず、複数のデータを同じ時間軸で読む
- ATの仕事率には応答の時間差を考慮し、症状・心電図・血圧・服薬・運動様式を合わせて処方する
- 回復期と退出時の変化まで確認して、検査を完了する
この記事で最も持ち帰ってほしいのは、CPXの数値を見る前に、「このデータは信頼できる条件で測れたか」と立ち止まることです。こぎ始める前の準備から退出時の観察までを一続きで見る。それが、実技編の要点です。
問1
仕事率は増えているのにVO2の増加が鈍い場合、最初の対応として最も適切なのはどれでしょうか。
- ΔVO2/ΔWRだけで心筋虚血と診断する
- O2 pulseだけで1回拍出量低下と判断する
- 測定条件と同時点の心電図・血圧・症状を確認する
- 呼気ガス以外のデータは見ない
正解:3
ΔVO2/ΔWRやO2 pulseは複数の要因の影響を受けます。まず測定条件を確認し、同じ時間軸の循環応答や症状と合わせて解釈します。
問2
AT判定について最も適切なのはどれでしょうか。
- V-slopeの自動判定だけを採用する
- VE/VO2、VE/VCO2、呼気終末ガスなど複数の変化を照合する
- 咳や深呼吸による変化もATとして採用する
- ATは必ず本人が「きつい」と感じる点と一致する
正解:2
ATは一つのグラフだけでなく、複数の呼気ガス指標と呼吸パターンを照合します。一時的な測定の乱れや自覚症状だけで決めません。
問3
ランプ負荷で求めたATを運動処方に使う考え方として最も適切なのはどれでしょうか。
- AT時点の表示仕事率を全員にそのまま処方する
- ATと仕事率の時間差を考慮し、循環応答や症状も合わせる
- 体重当たりpeak VO2だけで運動強度を決める
- 服薬や運動様式は考慮しない
正解:2
ランプ負荷では仕事率と酸素摂取応答に時間差があります。AT前の仕事率を候補にしながら、心電図、血圧、症状、服薬、運動様式を合わせて調整します。
あわせて読みたい
参考文献・出典
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン. 2021(2026年6月20日更新).
- Radtke T, et al. ERS statement on standardisation of cardiopulmonary exercise testing in chronic lung diseases. Eur Respir Rev. 2019;28:180101.
- American Thoracic Society/American College of Chest Physicians. ATS/ACCP Statement on Cardiopulmonary Exercise Testing. Am J Respir Crit Care Med. 2003;167:211-277.
- 第32回日本心臓リハビリテーション学会学術集会「第100回記念運動処方講習会2」公式プログラム. 2026年8月確認.
よくある質問
Q. CPXのランプ負荷は全員10分に設定しますか?
A. 一律には設定しません。8〜12分程度の漸増負荷は一般的な目安ですが、年齢、体格、身体機能、疾患、検査目的などから増加量を個別に決めます。自施設の手順と使用機器の説明書を優先してください。
Q. ATで表示された仕事率をそのまま運動処方に使えますか?
A. そのまま機械的には使いません。酸素摂取の応答には時間差があるため、ランプ負荷ではATより前の仕事率を候補にする考え方があります。心電図、血圧、症状、服薬、運動様式などを合わせて処方します。
この記事を書いた人
心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士
循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。
- 理学療法士(臨床経験10年以上)
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 地域糖尿病療養指導士
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