ATとは?CPXでの意味と判定方法を解説
前回の記事で、CPXのレポートはまず「AT・peak VO2・VE/VCO2」の3つから見るとお伝えしました。今回はそのなかでも質問がいちばん多く、心リハの運動処方に直結する AT(嫌気性代謝閾値) を掘り下げます。
用語は難しく見えますが、考え方はシンプルです。「無理なく続けられる運動の上限はどこか」を、呼気ガスの変化からとらえる——これがATです。
ATとは何か
AT(anaerobic threshold:嫌気性代謝閾値)は、有酸素的なエネルギー産生に、無酸素的な産生が加わり始める直前の運動強度を指します。2021年改訂版の心血管疾患リハビリテーションガイドラインも、有気的な代謝に無気的な代謝が上乗せされる一歩手前のVO2、という言い方でATを定義しています。
運動強度が上がると、あるところから筋のエネルギー需要に有酸素代謝だけでは追いつかなくなり、無酸素的な代謝が動員されます。このとき乳酸が増え、それを重炭酸イオンが中和(緩衝)する過程で二酸化炭素(CO2)が余分に産生されます。この「CO2の増え方が変わる点」を呼気ガスからとらえたものがATです。
この概念を心疾患の患者に対して確立したのはWassermanで、1964年のことだと『心臓リハビリテーション必携』は記しています。
呼び名が多いのは、見ている現象が同じだから
ATは資料によって呼び名が変わります。『必携』が並べているだけでも、無酸素性作業閾値、嫌気性代謝閾値、換気閾値(ventilatory threshold)、乳酸閾値(lactic acid threshold)といった表現があります。
同じ運動強度を、「換気の変化」から呼ぶか「乳酸の変化」から呼ぶかの違いです。表記が違っても、指しているものは同じだと考えて読み進めて構いません。ただし血中乳酸を実測するLT(乳酸性作業閾値)は測定方法そのものが異なるため、区別が必要です(FAQ参照)。
なぜ心リハでATが重視されるのか
AT以下の強度で運動したときの特徴として、『必携』は4つを挙げています。
- 長い時間続けられる
- 乳酸が上がりっぱなしにならず、アシドーシスに至らない
- 血中カテコラミンが大きく増えない
- 強度を上げたときの心機能の応答が保たれている
カテコラミンが増えたりアシドーシスが進んだりすると体内の環境が乱れ、心血管系では不整脈が誘発されたり、血管が収縮して後負荷が増えたりします。加えて心疾患をもつ人では、ATを超えた強度で左室駆出率が下がってしまう例が少なくない、とも指摘されています。これらを踏まえて『必携』は、心不全患者の運動療法ではATを強度の上限に置くのが妥当という立場をとっています。
ガイドラインも同じ方向を向いています。ATに達しない強度であればアシドーシスも血中カテコラミンの大幅な増加も生じにくく、その分だけ安全に行える、という説明です。CPXを運動処方の作成目的で実施することは、推奨クラスIIa・エビデンスレベルBに位置づけられています。
ATの判定方法
ATは1つの数式で自動的に決まるものではなく、複数の指標の「変化点」を手がかりに判定します。呼気ガス分析からATを決めるときの手がかりとして、『必携』は次の5つを挙げています。
| # | 判定基準 | 見るもの |
|---|---|---|
| 1 | ガス交換比(R = VCO2/VO2)が上向きに転じる点 | R |
| 2 | VO2に対してVCO2の増え方が変わる点(V-slope法) | VCO2 - VO2 |
| 3 | VE/VO2が上がり始めても、VE/VCO2はまだ上がらない点 | 換気当量 |
| 4 | PETO2が上がり始めても、PETCO2はまだ下がらない点 | 終末呼気ガス分圧 |
| 5 | VO2に対してVEの増え方が変わる点 | VE - VO2 |
V-slope法(最もよく使われる)
横軸にVO2、縦軸にVCO2をとってプロットすると、AT付近でVCO2の増え方(傾き)が急になる変化点が現れます。乳酸の緩衝で余分なCO2が出ることを反映しており、換気の影響を受けにくいため広く用いられます。

『必携』には求め方も具体的に書かれています。ウォームアップを終えてランプ負荷に入り、VO2が伸び始めた地点を起点に、RC point(呼吸性代償開始点)までの範囲を2本の直線で回帰し、その交点をATとする——という手順です。「なんとなく折れ曲がって見える点」を目で拾うのではなく、回帰にかける区間があらかじめ決まっている点がポイントになります。
換気当量・終末呼気ガス分圧による方法
V-slope法を補う形で、次のような変化点も併用されます。
- VE/VO2が上昇し始めるのに、VE/VCO2はまだ上がらない点
- PETO2(終末呼気O2分圧)が上昇し始めるのに、PETCO2はまだ下がらない点
- ガス交換比R(= VCO2/VO2)が上昇に転じる点
なお、ガス交換比RはVCO2をVO2で割った値ですから、V-slope法と本質的には同じものを見ていることになります。Rは運動を始めた直後にいったん少し下がり、その後は横ばいか再上昇に転じ、ATを越えるとさらに勢いよく上がっていきます。
Trend法(総合判定)
上記の複数指標を時系列で並べ、総合的にATを決める方法です。1つの指標だけで決めると誤差が出やすいため、実際には複数法を突き合わせて判定するのが一般的です。
判定できないこともある
「複数の方法で見ても決まらない」という状況は実際にあります。『必携』は、代表的な2つの場面を挙げています。

1つめは、運動耐容能が非常に低い場合。 20ワットに満たない負荷でもうATが現れてしまう患者では、ウォームアップの最中にATを通り過ぎてしまい、判定できないことがあります。原因は機器の側にもあります。一般的な電磁制動型のエルゴメータは、表示上0ワットに合わせてもメカニカルロスが残り、実際には7〜17ワットほどの負荷が患者にかかっているためです。『必携』は対処法として、サーボモーター付きのエルゴメータに替え、0ワットあるいはマイナスの負荷でウォームアップする方法を挙げています。
2つめは、換気指標が周期的に変動する場合。 oscillatory ventilationを認める症例では、休んでいるときから、場合によっては運動中も60〜70秒ほどの周期で換気の指標が上下します。その波に変化点が紛れてしまい、ATを1点に決められなくなる、というのが『必携』の説明です。ガイドラインはこの揺れを運動時周期性呼吸変動(EOV)と呼び、運動中のVEが約80秒の周期で基礎値の15%以上ぶれる現象と定義したうえで、重症心不全を示す所見として扱っています。
いずれの場合も、無理に1点を決めないことが大切です。判定できなかった事実そのものが、患者の重症度を反映した所見でもあります。
どの方法でも、判定には一定の慣れが必要です。自施設のレポートがどの指標を表示しているかを確認し、成書やガイドラインの図と見比べながら読み解くのがおすすめです。
ATは運動処方にどう使うのか
ATが決まると、その点の生体データを運動処方の目安に使えます。ただし、ワット数と心拍数では扱い方が違います。

ランプ負荷では、仕事率を上げてから酸素摂取量がそれに応答するまでに時間差があります。そのため、AT出現時のワット数をそのまま処方すると過負荷になります。2021年改訂版ガイドラインは、ランプ負荷のCPXをもとに有酸素運動を組み立てるときは、ATより1分さかのぼった時点のワット数を採用するという方法を挙げており、『必携』にも同じ考え方が載っています。こうすると、一定負荷に切り替えたときのVO2がほぼATと等しくなります。
一方の心拍数は事情が違います。心拍数もVO2と並ぶ運動強度の物差しなので、AT時点の値をそのまま採用してよいと『必携』は述べています。つまり運動処方で使う値は次のようになります。
| 指標 | 処方に使う値 |
|---|---|
| 負荷量(ワット) | AT出現の約1分前の値 |
| 心拍数(AT HR) | AT時点の値 |
| METs | AT時点の値(生活活動の強度指導の目安) |
強度としての位置づけも整理されています。ガイドラインの有酸素運動の強度分類では、AT未満が低強度、AT前後が中強度にあたります。AT基準で処方した場合はpeak VO2の40〜60%程度になるとされ、心血管疾患の患者に勧められる中強度の帯にちょうど収まります。
心拍数で処方しにくい患者ほど、ATが効く
ATの使いどころとして押さえておきたいのが、心拍数を基準にした処方が難しい患者です。ガイドラインは、変時性応答不全のある患者(ペースメーカ植込み例、β遮断薬投与例など)や、心房細動といった不整脈をもつ患者を挙げています。こうしたケースでは、CPXで運動中の代謝と換気の反応を押さえたうえでATレベルの処方に切り替えるか、peak VO2に対する相対強度を指標に使う、という方針が示されています。
心房細動については記述がさらに具体的で、負荷に対する心拍数の上がり方が大きいうえ反応も個人差が大きいため、CPXによるAT基準の処方が望ましい、とされています。
ただし、ATレベルなら安全、と機械的に決めつけないでください。ガイドラインは冠動脈バイパス術後の項で、たとえATレベルの強度でも、血圧が過度に上がったり心筋虚血をうかがわせる所見が出たりすれば強度を落とす、と釘を刺しています。処方した強度で虚血・危険な不整脈・血圧の異常な上昇が起きていないかを確認する手順は、どの基準で処方しても変わりません。
CPXが実施できない施設では、これらの代わりに心拍数から推定するKarvonen法や、自覚的運動強度(Borgスケール)を組み合わせて強度を調整します。この関係はCPXとは(前回記事)でも触れました。
ATとpeak VO2は何が違うのか
同じCPXの指標でも、ATとpeak VO2は性質が異なります。
| 見方 | AT | peak VO2 |
|---|---|---|
| 意味 | 持続可能な「中等度」の運動強度 | 到達できた最高の酸素摂取量 |
| 測定に必要な負荷 | 最大下負荷でも評価できる | 最大負荷試験が必要 |
| 主な規定因子 | 最大下での心拍応答・血管拡張能・酸素利用能 | 最大心拍出量にも依存 |
| トレーニングでの変化 | peak VO2より先に、より大きく伸びる | 伸びはATに遅れる |
| 加齢・心機能低下の影響 | peak VO2より低下が少ない | 影響を受けやすい |
臨床上とくに大きいのが、ATなら最大下の運動負荷試験でも評価できる点です。ガイドラインは、重症度の高い患者でも運動強度を決められる利点としてこれを挙げています。最大まで追い込めない相手にも処方が組める——これはATならではの強みです。
両者の位置関係についてガイドラインは、ATがpeak VO2の50〜55%程度に位置すること、そしてそこから下の強度域では代償性の過換気が生じないことを挙げ、ATを日常活動のレベルを映す指標として説明しています。
評価の目安も用意されています。ガイドラインの表8には、自転車エルゴメータで測定した日本人のpeak VO2とATについて、年齢と性別を入れれば標準値が出る推定式が載っています。そのうえで、実測値が標準値の何%にあたるかを80%・60%・40%で区切り、運動耐容能の落ち込みや心不全の重症度を段階づける方法が勧められています。ATは予後の予測因子としても位置づけられています。自施設の値を読むときは、絶対値だけを見ず、この標準値と照らし合わせてください。
『必携』には目標設定の例も挙げられていて、座業が主体の勤労者が社会復帰できる目標値としてATを12〜14 mL/min/kg(3〜4 METs)に設定する、といった使い方が紹介されています。
つまずきやすいポイント
- ATとRCPの違い — ATは代謝の転換点。RCP(呼吸性代償点)は、その後さらに換気が代償的に増え始める点で、ATより後に現れます。順番を押さえると混乱しません(→RCPとは)。
- 「ATが高い=良い」と単純化しない — ATは年齢・性別・体格・運動習慣の影響を受けます。絶対値だけでなく予測値との比較や経過でみます。
- ATとLTの混同 — ガス交換から求めるATと、血中乳酸から求めるLTは測定法が異なります(FAQ参照)。
- AT時のワット数をそのまま処方しない — VO2は仕事率に遅れて追従します。処方する仕事率はAT出現の約1分前の値です。
まとめ
- ATは「無理なく続けられる運動強度の上限の目安」。ATレベル以下の運動は長時間持続でき、乳酸・アシドーシス・カテコラミンの過剰上昇を避けやすい。
- 判定はV-slope法を中心に5つの基準を併用する。運動耐容能が非常に低い場合や換気が周期的に揺れる場合には、決定できないこともある。
- 運動処方では、ワット数はAT出現の約1分前、心拍数はAT時点の値を使う。
- ATは最大下負荷でも評価でき、心拍数で処方しにくい患者(β遮断薬・ペースメーカ・心房細動など)でも強度を決められる。
次回は、運動耐容能の指標である peak VO2 の意味と読み方を扱います。CPX全体の位置づけはCPXとは、実際のレポートの読み方はCPX実技の測定と解析、学習の順番は心リハ学習ロードマップもあわせてどうぞ。
理解確認問題
理解度を確かめるための当サイトオリジナル問題です。学会の試験問題ではありません。
問1
ランプ負荷によるCPXでATを求め、有酸素運動を処方します。仕事率(ワット数)の決め方として、2021年改訂版ガイドラインに示されているのはどれですか。
- AT出現時のワット数をそのまま用いる
- AT出現の約1分前のワット数を用いる
- AT出現の約1分後のワット数を用いる
- peak時のワット数の50%を用いる
正解: 2
ランプ負荷では、仕事率を上げてからVO2が応答するまでに時間差があります。AT出現時のワット数をそのまま処方すると過負荷になるため、約1分前の仕事率を用います。一方、心拍数はVO2と同じく運動強度の指標なので、AT時点の値をそのまま用いてよいとされています。
問2
ATとpeak VO2の違いの説明として、最も適切なのはどれですか。
- ATもpeak VO2も、最大運動負荷試験を行わなければ評価できない
- ATは最大下の負荷試験でも評価でき、重症例にも強度を出せる
- peak VO2は最大下負荷で評価でき、ATは最大負荷が必要である
- ATとpeak VO2は同じ現象を別の単位で表したものである
正解: 2
peak VO2を実測するには最大まで追い込む負荷試験が要りますが、ATは最大下の負荷試験でも評価できます。ガイドラインはこれを、重症度の高い患者にも運動強度を決められる利点として挙げています。
問3
CPXでATが決定できないことがある場面として、『心臓リハビリテーション必携』に挙げられているのはどれですか。
- 運動耐容能が非常に低く、ウォームアップの段階でATを通り過ぎてしまう場合
- peak RERが1.10を超えた場合
- 運動終了後の回復期が3分以上続いた場合
- 安静時心拍数が60/min未満の場合
正解: 1
20ワットに届かない負荷でATが現れる患者では、通常のランプ負荷だとウォームアップ中にATを通過してしまい、判定できないことがあります。もう一つの代表例が、換気の指標が周期的に揺れる場合(oscillatory ventilation)です。
参考文献・出典
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン.
- 日本心臓リハビリテーション学会 編. 指導士資格認定試験準拠 心臓リハビリテーション必携. 2022年増補改訂版. 日本心臓リハビリテーション学会; 2022. Ⅲ章「心臓リハビリテーションにおける負荷試験と評価方法」pp.199-204, 210-212.
- NPO法人ジャパンハートクラブ「心肺運動負荷試験の呼吸循環指標」(2026年7月閲覧).
よくある質問
Q. ATとLT(乳酸性作業閾値)は同じものですか?
A. 厳密には異なります。LTは血中乳酸の測定にもとづく閾値、ATは呼気ガス分析(VO2・VCO2など)から推定する閾値で、測定方法が違います。近い運動強度を示すことが多いものの、同一ではない点に注意してください。
Q. ATが判定できないこともありますか?
A. あります。『心臓リハビリテーション必携』は、運動耐容能がひどく低くウォームアップの段階でATを通り過ぎてしまう場合と、換気の指標が周期的に揺れる場合を、決定できない例として挙げています。運動が十分な強度まで届かなかったときや、データのばらつきが大きいときも同様です。その際は複数の判定法を併用したり、他の指標とあわせて総合的に評価します。
Q. ATは心拍数で処方できない患者にも使えますか?
A. 使えます。2021年改訂版ガイドラインは、β遮断薬を飲んでいる患者やペースメーカ植込み例のような変時性応答不全、それに心房細動などの不整脈がある患者では心拍数を物差しにしにくいとして、CPXでAT基準の処方に切り替えるか、peak VO2に対する相対強度を使う方針を示しています。
この記事を書いた人
心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士
循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。
- 理学療法士(臨床経験10年以上)
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 地域糖尿病療養指導士
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