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心リハの基礎

心リハの運動療法に期待される効果

公開日・最終更新日:

「心臓が悪いのに運動して大丈夫?」——患者さんが抱きやすい疑問です。

結論から言えば、適切に選択・管理された安定期の患者では、運動療法により運動耐容能・症状・QOLの改善や再入院の減少が期待されます。一方、生命予後への効果には対象や解析による不確実性が残ります。そしてとくに安定した慢性心不全では、末梢循環や骨格筋の適応が運動耐容能改善に大きく寄与します

この記事では、心リハの運動療法に期待される効果を、これから循環器リハに関わる医療職向けに整理します。効果は病態や重症度で異なり断定はできませんが、仕組みまで理解しておくと、指導にも説得力が出ます。

効果は心臓だけでなく全身に及ぶ

心リハの効果を運動耐容能・症状・心臓と冠循環・骨格筋・自律神経・冠危険因子管理の6領域に分けて整理した図

図1 当サイト作成。JCS/JACR 2021ガイドラインなどを参考に整理。効果は対象疾患、重症度、薬物治療、プログラム内容によって異なり、すべての項目が一律に生じるものではありません。

心リハは運動療法を中心に、危険因子管理、患者教育、栄養・禁煙支援、心理社会的介入などを組み合わせる包括的プログラムです。以下の効果には、運動療法に主に関連するものと、包括的介入によって得られるものが含まれます。両者を混同すると、患者さんへの説明もぶれます。

前提として、心リハの目的は次の3つに整理されます。効果はこの3つに向かって働きます。

目的内容
デコンディショニングの是正身体的・精神的な機能低下を戻し、早期の社会復帰を支える
冠危険因子の是正と二次予防血圧・血糖・脂質・喫煙などを管理し、再発を防ぐ
QOLの向上生活の質を高める。不安・抑うつを含めて生活全体をみる

なぜ動けるようになるのか

もっとも代表的な効果が、運動耐容能(どれだけ動けるか)の改善です。仕組みまで知っておくと、患者さんへの説明が具体的になります。

peak VO2をFickの原理で中枢循環側と末梢循環・骨格筋側に分け、慢性心不全で報告される適応を整理した図

図2 当サイト作成。peak VO2を構成する要素と、慢性心不全で報告される中枢循環・末梢適応を整理した模式図。

運動耐容能の代表的な指標であるpeak VO2は、Fickの原理により、最高運動時の心拍出量と同時点の動静脈酸素含量較差の積で表されます。運動療法はこの両方に働きかけますが、とくに安定した慢性心不全では、末梢循環・骨格筋側の適応の寄与が大きいとされています。

なおpeak VO2は運動耐容能を代表する指標のひとつであり、運動耐容能そのものと完全に同じものではありません。歩行速度や身体機能なども合わせてみる必要があります。

慢性心不全では、運動療法を行っても安静時の左室駆出率の変化は小さいことが多いと報告されています。一方、骨格筋のエネルギー代謝には改善がみられたとする検討もあります。末梢側の適応を示す所見です。

末梢循環と骨格筋の変化

末梢側の適応は、血流を届ける側(末梢循環)酸素を使う側(骨格筋)に分けて整理すると理解しやすくなります。

末梢循環

  • 血管内皮機能の改善 … 内皮依存性の血管拡張反応が改善する
  • 血流分配の変化 … 運動する筋へ血流が配分されやすくなる

骨格筋

  • 毛細血管密度の増加 … 筋へ酸素を届けやすくなる
  • ミトコンドリアの増加 … 酸素を使ってエネルギーを作る能力が高まる
  • 酸化酵素活性の増大 … 有酸素性のエネルギー産生が効率化する
  • 持久的な筋線維特性への変化 … 疲れにくい性質の割合が増える

つまり安定した慢性心不全では、「弱った心臓を鍛えて強くする」というより、同じ心拍出量でも全身が酸素をうまく使えるようになるというイメージが実態に近いといえます。

この考え方は、心不全の運動療法を理解するときの土台にもなります。心不全患者の運動耐容能は左室収縮機能だけで決まるのではなく、骨格筋量の減少や代謝異常、血管拡張能の低下、呼吸筋の疲労などにも規定されることが明らかにされてきました。だからこそ、心機能が大きく変わらなくても運動耐容能は改善しうる、と説明できます(→心不全の心リハ)。

冠循環と自律神経の変化

冠動脈については、安定冠動脈疾患などで内皮機能や心筋灌流の改善が報告されています。心不全では、内皮依存性の血管拡張反応の改善やeNOS(一酸化窒素合成酵素)発現の増加という報告があります。いずれもすべての心疾患に一律に当てはまるものではありません。

自律神経については、交感神経緊張の低下、副交感神経緊張の亢進、圧受容体反射感受性の改善が挙げられます。心不全では交感神経の過剰な緊張が病態を悪化させる方向に働くため、これらの変化は、心不全の病態生理上、好ましい意味をもつ可能性があります。

なお、peak VO2やAT(嫌気性代謝閾値)はCPXで評価します(→peak VO2とはATとは)。

同じ労作が楽になる仕組み

「前と同じ動作なのに楽になった」という変化にも、はっきりした理由があります。

心筋虚血の閾値が上がる

狭心症では、ある水準を超える心負荷がかかると心筋虚血が起こり、症状が出ます。安定狭心症では、運動療法によって心筋虚血の閾値が上昇し、より高い負荷まで症状なく動けるようになると報告されています。

心臓の仕事量が減る

運動療法後は、同一絶対負荷での心拍数が減少します。心臓二重積(収縮期血圧×心拍数、ダブルプロダクト)も低下します。ただし二重積は心筋酸素需要そのものを測った値ではなく、あくまで代理指標です。

同一絶対負荷で心拍数と二重積が低下することは、その労作時の心筋酸素需要が低下した可能性を示します。これが「楽になった」という実感の背景のひとつと考えられます。呼吸の面でも、同じ負荷での換気量の減少が示されています。

危険因子の改善と二次予防

運動は、再発を防ぐための危険因子の管理にも役立ちます。器質的疾患を伴わない高血圧・脂質異常症・糖尿病に対しては、運動療法単独の効果が確立しているとされ、心リハでも同様の効果が期待されます。

ただし、限界もあります。

項目運動療法・運動を含む心リハでの傾向
収縮期血圧低下が報告されているが、効果量には個人差がある
総コレステロール・中性脂肪低下が報告されている
HDL-C・LDL-C変化は一定していない
体重管理・禁煙運動療法単独では不十分で、包括的な支援が必要

体重管理や禁煙は運動だけでは維持しにくいため、患者教育や食事療法を組み合わせた包括的心臓リハビリテーションが必要とされています。

運動療法単独試験のメタアナリシスにIMPACT冠疾患モデルを適用した推計では、心臓死減少の約58%が喫煙、総コレステロール、収縮期血圧の改善に帰属し得るとされ、そのうち禁煙の推定寄与が最も大きかったと報告されています。ただし、これは個人レベルの媒介解析で因果関係を証明したものではなく、モデルによる推計です。

「運動さえしていればよい」わけではありません。指導のときにも、ここは言い添えたい部分です。

予後・QOLと安全性

予後とQOLの改善

心筋梗塞後患者を対象とした1980年代のメタアナリシスでは、運動を含む心臓リハビリテーションにより、平均約3年で全死亡が約20〜24%、心血管死が約22〜25%相対的に低下したと報告されました。

ただし、当時の試験から運動療法単独と包括的プログラムの効果差を確定することはできません。また、これらは現在の再灌流療法や薬物療法が普及する以前の研究が中心である点にも注意が必要です。

心不全では、外来HFrEF患者(LVEF 35%以下)を対象としたHF-ACTION(2009年)で、全死亡または全入院は未補正解析では有意差がなく、事前に規定された予後因子で補正した解析で小幅な有意差が示されました。運動耐容能とQOLの改善も認められましたが、効果量は限定的でした。

主としてHFrEF患者を対象とした2015年のメタアナリシスでは、全入院の相対リスクが25%、心不全入院の相対リスクが39%低下しました。一方、1年以内の死亡には有意差が認められていません。いずれも絶対減少ではなく相対リスクの低下である点に注意してください。

日本の2025年改訂版心不全診療ガイドラインでは、運動耐容能・QOL改善を目的とする運動療法はClass I包括的心リハはQOL改善・心不全再入院予防を目的としてClass Iとされています。一方、HFrEFの生命予後改善・再入院予防を目的とする運動療法はClass IIaであり、目的によって推奨クラスが異なります。「心リハはクラスI」とひとまとめにせず、何を目的とした推奨かを確認することが大切です。

なお不安や抑うつについては、運動療法のみでは十分に改善しない場合も少なくないとされ、ここでも心理社会的な介入を含めた包括的な取り組みの意義が指摘されています。

安全性と実施条件

効果があっても、リスクが高ければ勧められません。報告されている有害事象の頻度をみておきます。

  • 米国の167の外来心リハプログラムを対象とした1980〜1984年の調査では、非致死性心筋梗塞は293,990患者・時間あたり1件と報告されました
  • 2014年の全国施設調査では、回復期心リハ136施設の383,096患者・時間において、運動中の有害事象は12件、生命を脅かす事象は1件で、運動中の死亡は報告されませんでした
  • 運動負荷試験に基づく個別運動処方を行うFormal CR施設では、運動中および運動後24時間以内の生命を脅かす事象は報告されませんでした

ただし、この調査は施設単位の観察研究です。運動負荷試験が重篤な事象を防いだという因果関係や、リスクがゼロであることを示すものではありません。安全な実施には、適応・禁忌の確認、当日の状態評価、個別処方、監視、中止基準、救急対応体制が必要です(→心リハのリスク管理運動療法の中止基準)。

効果を語るときの注意点

効果を説明するときは、断定を避けることが大切です。効果の程度や適応は病態・重症度によって異なり、一律には当てはまりません。

  • 「必ず良くなる」「治る」といった言い方はしない
  • 「〜が期待される」「〜とされている」と、根拠と限界をふまえて伝える
  • 効果とリスクは表裏一体で、適切な強度と管理が前提であることを添える

また、運動療法の効果は続けることで保たれるとされます。「一度よくなれば終わり」ではない、という点もあわせて伝えたい部分です。

裏づけや適応の詳細は、最新のガイドライン・成書で確認してください。

まとめ

  • 運動療法は運動耐容能・症状・QOLの改善に寄与し、包括的心リハではさらに危険因子管理や心理社会的支援も行う。両者を区別して語る。
  • とくに安定した慢性心不全では、末梢循環・骨格筋の適応が運動耐容能改善に大きく寄与する。
  • 安定狭心症では、虚血閾値の上昇や同一負荷時の心拍数・二重積の低下が報告されている。
  • 生命予後への効果は対象・時代・解析により不確実性があり、運動療法単独と包括的プログラムの効果差は確定していない。
  • 安全な実施には適応判断、個別処方、監視、中止基準、救急対応体制が必要で、リスクはゼロではない

理解確認問題

問1

運動療法によって運動耐容能が改善する主な仕組みとして、最も適切なものはどれでしょうか。

  1. 安静時の左室駆出率が大きく上昇するため
  2. 血管内皮機能の改善や骨格筋の毛細血管・ミトコンドリアの増加など、末梢循環・骨格筋の適応の寄与が大きい
  3. 心臓のサイズが小さくなるため
  4. 運動時に心拍数が上がりやすくなるため

正解:2

peak VO2はFickの原理により、最高運動時の心拍出量と同時点の動静脈酸素含量較差の積で表されます。安定した慢性心不全では安静時の左室駆出率の変化は小さいことが多く、末梢循環・骨格筋側の適応の寄与が大きいと考えられています。

問2

冠危険因子に対する運動療法の効果として、最も適切なものはどれでしょうか。

  1. 運動療法のみで、体重管理と禁煙は長期にわたり維持できる
  2. HDL-CとLDL-Cは、運動療法で必ず改善する
  3. 運動療法だけでは不十分な項目があり、患者教育や食事療法を含む包括的心リハが必要とされる
  4. 冠危険因子の管理は心リハの目的に含まれない

正解:3

メタアナリシスでは総コレステロールと中性脂肪の低下が報告されている一方、HDL-C・LDL-Cの変化は一定していません。また体重管理や禁煙は運動療法単独では不十分とされ、患者教育や食事療法を含む包括的な支援が必要です。

問3

心リハの安全性についての説明として、最も適切なものはどれでしょうか。

  1. 有害事象の頻度が高いため、効果があっても勧めにくい
  2. 適応・禁忌を確認し、個別処方と監視・救急対応体制のもとで実施してもリスクはゼロではないが、重篤な事象はまれと報告されている
  3. 運動負荷試験を行えば、重篤な事象は起こらないことが証明されている
  4. 安全性は心リハの効果とは無関係である

正解:2

国内外の調査では、運動中の重篤な事象の頻度はまれと報告されています。ただしこれらは施設単位の観察研究であり、リスクがゼロであることや、運動負荷試験が重篤な事象を防いだという因果関係を示すものではありません。適応判断、個別処方、監視、中止基準、救急対応体制をそろえたうえで実施することが前提になります。

あわせて読みたい

参考文献・出典

  1. 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン.
  2. 日本循環器学会/日本心不全学会. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(2025年). 第11章4.4、推奨表81.
  3. 日本心臓リハビリテーション学会編. 心臓リハビリテーション必携 —指導士資格認定試験準拠— 2022年増補改訂版(2022年). Ⅳ章 心臓リハビリテーション総論.
  4. Oldridge NB, et al. Cardiac Rehabilitation After Myocardial Infarction: Combined Experience of Randomized Clinical Trials. JAMA. 1988;260(7):945–950.
  5. O'Connor GT, et al. An overview of randomized trials of rehabilitation with exercise after myocardial infarction. Circulation. 1989;80(2):234–244.
  6. Taylor RS, et al. Exercise-Based Rehabilitation for Patients with Coronary Heart Disease. American Journal of Medicine. 2004;116:682–692.
  7. Taylor RS, Unal B, Critchley JA, Capewell S. Mortality reductions in patients receiving exercise-based cardiac rehabilitation: how much can be attributed to cardiovascular risk factor improvements? European Journal of Cardiovascular Prevention & Rehabilitation. 2006;13(3):369–374.
  8. O'Connor CM, et al. Efficacy and safety of exercise training in patients with chronic heart failure: HF-ACTION randomized controlled trial. JAMA(2009年).
  9. Sagar VA, et al. Exercise-based rehabilitation for heart failure: systematic review and meta-analysis. Open Heart(2015年).
  10. Van Camp SP, Peterson RA. Cardiovascular Complications of Outpatient Cardiac Rehabilitation Programs. JAMA. 1986;256:1160–1163.
  11. Saito M, et al. Safety of Exercise-Based Cardiac Rehabilitation and Exercise Testing for Cardiac Patients in Japan. Circulation Journal. 2014;78:1646–1653.

よくある質問

Q. 運動すると心臓に負担がかかって悪くなりませんか?

A. 2014年の全国施設調査では、回復期心リハ136施設の383,096患者・時間において、運動中の有害事象は12件、生命を脅かす事象は1件で、運動中の死亡は報告されませんでした。ただしこれは施設単位の観察研究であり、リスクがゼロであることを示すものではありません。適応・禁忌の確認、当日の状態評価、個別の運動処方、監視、中止基準、救急対応体制がそろっていることが前提になります。

Q. 運動の効果はどれくらいで出ますか?

A. 効果の程度や現れ方には個人差があり、病態・重症度・運動の内容によって異なります。臨床では数週から数カ月単位で運動耐容能や症状の変化を評価することが多いですが、「この期間で必ずこうなる」と言えるものではありません。定期的に評価しながら継続することが大切です。

Q. 運動療法で心臓の動き(駆出率)がよくなるということですか?

A. 必ずしもそうではありません。とくに安定した慢性心不全では、安静時の左室駆出率の変化は小さいことが多いと報告されています。運動耐容能が改善する背景には、血管内皮機能や血流分配といった末梢循環の変化と、骨格筋の毛細血管密度・ミトコンドリアの増加といった適応が大きく寄与すると考えられています。心機能が大きく変わらなくても運動耐容能は改善しうる、という点が心リハの重要なポイントです。

この記事を書いた人

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心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士

循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。

  • 理学療法士(臨床経験10年以上)
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 地域糖尿病療養指導士
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