心リハの運動療法に期待される効果
「心臓が悪いのに運動して大丈夫?」——患者さんが抱きやすい疑問です。
この記事では、安定した慢性心不全、安定狭心症、心筋梗塞後など、原典で対象を確認できた範囲ごとに運動療法と包括的心リハを区別して説明します。とくに安定した慢性心不全では、末梢循環や骨格筋の適応が運動耐容能改善に大きく寄与します。
これから循環器リハに関わる医療職が、患者さんへ説明しやすいように仕組みと研究結果を整理します。
心リハは運動療法だけではない
心リハは運動療法を中心に、危険因子管理、患者教育、栄養・禁煙支援、心理社会的介入などを組み合わせる包括的プログラムです。以下の効果には、運動療法に主に関連するものと、包括的介入によって得られるものが含まれます。両者を混同すると、患者さんへの説明もぶれます。
なぜ動けるようになるのか
ここでは、安定した慢性心不全で報告されている運動耐容能(どれだけ動けるか)の改善の仕組みを整理します。

図1 当サイト作成。peak VO2を構成する要素と、慢性心不全で報告される中枢循環・末梢適応を整理した模式図。
運動耐容能の代表的な指標であるpeak VO2は、Fickの原理により、最高運動時の心拍出量と同時点の動静脈酸素含量較差の積で表されます。とくに安定した慢性心不全では、末梢循環・骨格筋側の適応の寄与が大きいとされています。
なおpeak VO2は、運動耐容能を評価する代表的な指標のひとつです。
慢性心不全では、運動療法を行っても安静時の左室駆出率の変化は小さいことが多いと報告されています。一方、骨格筋のエネルギー代謝には改善がみられたとする検討もあります。末梢側の適応を示す所見です。
末梢循環と骨格筋の変化
末梢側の適応は、血流を届ける側(末梢循環)と酸素を使う側(骨格筋)に分けて整理すると理解しやすくなります。
末梢循環
- 血管内皮機能の改善 … 内皮依存性の血管拡張反応が改善する
- 血流分配の変化 … 運動する筋へ血流が配分されやすくなる
骨格筋
- 毛細血管密度の増加 … 筋へ酸素を届けやすくなる
- ミトコンドリアの増加 … 酸素を使ってエネルギーを作る能力が高まる
- 酸化酵素活性の増大 … 有酸素性のエネルギー産生が効率化する
- 持久的な筋線維特性への変化 … 疲れにくい性質の割合が増える
つまり安定した慢性心不全では、「弱った心臓を鍛えて強くする」というより、同じ心拍出量でも全身が酸素をうまく使えるようになるというイメージが実態に近いといえます。
この考え方は、心不全の運動療法を理解するときの土台にもなります。心不全患者の運動耐容能は左室収縮機能だけで決まるのではなく、骨格筋量の減少や代謝異常、血管拡張能の低下、呼吸筋の疲労などにも規定されることが明らかにされてきました。だからこそ、心機能が大きく変わらなくても運動耐容能は改善しうる、と説明できます(→心不全の心リハ(記事準備中))。
冠循環と自律神経の変化
冠動脈については、安定冠動脈疾患などで内皮機能や心筋灌流の改善が報告されています。心不全では、内皮依存性の血管拡張反応の改善やeNOS(一酸化窒素合成酵素)発現の増加という報告があります。いずれもすべての心疾患に一律に当てはまるものではありません。
自律神経については、交感神経緊張の低下、副交感神経緊張の亢進、圧受容体反射感受性の改善が挙げられます。心不全では交感神経の過剰な緊張が病態を悪化させる方向に働くため、これらの変化は、心不全の病態生理上、好ましい意味をもつ可能性があります。
なお、peak VO2やAT(嫌気性代謝閾値)はCPXで評価します(→peak VO2とは、ATとは)。
同じ労作が楽になる仕組み
「前と同じ動作なのに楽になった」という変化にも、はっきりした理由があります。
心筋虚血の閾値が上がる
狭心症では、ある水準を超える心負荷がかかると心筋虚血が起こり、症状が出ます。安定狭心症では、運動療法によって心筋虚血の閾値が上昇し、より高い負荷まで症状なく動けるようになると報告されています。
心臓の仕事量が減る
運動療法後は、同一絶対負荷での心拍数が減少します。心臓二重積(収縮期血圧×心拍数、ダブルプロダクト)も低下します。ただし二重積は心筋酸素需要そのものを測った値ではなく、あくまで代理指標です。
同一絶対負荷で心拍数と二重積が低下することは、その労作時の心筋酸素需要が低下した可能性を示します。これが「楽になった」という実感の背景のひとつと考えられます。慢性心不全患者を対象とした研究では、運動後に同じ仕事率での換気量が減少したと報告されています。
危険因子の改善と二次予防
原典で確認できた範囲を、項目ごとに整理します。
ただし、限界もあります。
| 項目 | 運動療法・運動を含む心リハでの傾向 |
|---|---|
| 収縮期血圧 | 低下が報告されている |
| 総コレステロール・中性脂肪 | 低下が報告されている |
| HDL-C・LDL-C | 変化は一定していない |
体重管理や禁煙は、患者教育、食事・栄養支援、禁煙支援を組み合わせた包括的心臓リハビリテーションの中で扱います。
「運動さえしていればよい」わけではありません。指導のときにも、ここは言い添えたい部分です。
予後・QOLと安全性
予後とQOLの改善
現在の再灌流療法や薬物療法が普及する前を中心とした心筋梗塞後試験をまとめた解析では、運動を含む心臓リハビリテーションにより、平均約3年で全死亡が20%、心血管死が22%相対的に低下したと報告されました。
ただし、当時の試験から運動療法単独と包括的プログラムの効果差を確定することはできません。また、これらは現在の再灌流療法や薬物療法が普及する以前の研究が中心である点にも注意が必要です。
心不全では、外来HFrEF患者(LVEF 35%以下)を対象としたHF-ACTION(2009年)で、全死亡または全入院は未補正解析では有意差がなく、事前に規定された予後因子で補正した解析で小幅な有意差が示されました。運動耐容能とQOLの改善も認められましたが、効果量は限定的でした。
主としてHFrEF患者を対象とした2015年のメタアナリシスでは、全入院の相対リスクが25%、心不全入院の相対リスクが39%低下しました。一方、1年以内の死亡には有意差が認められていません。いずれも絶対減少ではなく相対リスクの低下である点に注意してください。
日本の2025年改訂版心不全診療ガイドラインでは、運動耐容能・QOL改善を目的とする運動療法はClass I、包括的心リハはQOL改善・心不全再入院予防を目的としてClass Iとされています。一方、HFrEFの生命予後改善・再入院予防を目的とする運動療法はClass IIaであり、目的によって推奨クラスが異なります。「心リハはクラスI」とひとまとめにせず、何を目的とした推奨かを確認することが大切です。
冠動脈疾患患者の抑うつ症状に対しては、症状の改善を目的に、抗うつ薬や認知行動療法などの心理療法を考慮することがガイドラインで示されています。
安全性と実施条件
効果があっても、リスクが高ければ勧められません。報告されている有害事象の頻度をみておきます。
- 米国の167の外来心リハプログラムを対象とした1980〜1984年の調査では、非致死性心筋梗塞は293,990患者・時間あたり1件と報告されました
- 2014年の全国施設調査では、回復期心リハ136施設の383,096患者・時間において、運動中の有害事象は12件、生命を脅かす事象は1件で、運動中の死亡は報告されませんでした
- 運動負荷試験に基づく個別運動処方を行うFormal CR施設では、運動中および運動後24時間以内の生命を脅かす事象は報告されませんでした
ただし、この調査は施設単位の観察研究です。運動負荷試験が重篤な事象を防いだという因果関係や、リスクがゼロであることを示すものではありません。安全に行うには、運動前のリスクと当日の状態を評価し、個別の運動処方と必要な監視のもとで実施します。症状や所見に応じて中止を判断し、緊急時に対応できる備えも必要です(→心リハのリスク管理(記事準備中)、運動療法の中止基準)。
効果を語るときの注意点
効果を説明するときは、研究の対象患者、介入、評価項目を確かめ、確認した範囲を超えて断定しないことが大切です。
- 「必ず良くなる」「治る」といった言い方はしない
- 「〜が期待される」「〜とされている」と、根拠と限界をふまえて伝える
- 効果とリスクは表裏一体で、適切な強度と管理が前提であることを添える
裏づけや適応の詳細は、最新のガイドライン・成書で確認してください。
まとめ
- 心リハは、運動療法に危険因子管理、患者教育、栄養・禁煙支援、心理社会的介入などを組み合わせる包括的プログラムである。
- とくに安定した慢性心不全では、末梢循環・骨格筋の適応が運動耐容能改善に大きく寄与する。
- 安定狭心症では、虚血閾値の上昇や同一負荷時の心拍数・二重積の低下が報告されている。
- 心筋梗塞後の死亡率低下は現在の標準治療普及前を中心とした過去の研究結果であり、現代へ同じ割合を一般化しない。
- 安全な実施では、リスクと当日の状態を評価し、個別処方、必要な監視、中止判断、緊急時への備えを行う。観察研究で事象が少なくても、リスクはゼロではない。
理解確認問題
問1
運動療法によって運動耐容能が改善する主な仕組みとして、最も適切なものはどれでしょうか。
- 安静時の左室駆出率が大きく上昇するため
- 血管内皮機能の改善や骨格筋の毛細血管・ミトコンドリアの増加など、末梢循環・骨格筋の適応の寄与が大きい
- 心臓のサイズが小さくなるため
- 運動時に心拍数が上がりやすくなるため
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正解:2
peak VO2はFickの原理により、最高運動時の心拍出量と同時点の動静脈酸素含量較差の積で表されます。安定した慢性心不全では安静時の左室駆出率の変化は小さいことが多く、末梢循環・骨格筋側の適応の寄与が大きいと考えられています。
問2
冠危険因子管理を含む心リハの説明として、最も適切なものはどれでしょうか。
- 運動療法だけを行い、患者教育や食事・栄養支援は含めない
- HDL-CとLDL-Cは、運動療法で必ず改善する
- 運動療法に加え、患者教育、食事・栄養支援、禁煙支援などを組み合わせる
- 冠危険因子の管理は心リハの目的に含まれない
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正解:3
心リハは運動療法だけでなく、患者教育、食事・栄養支援、禁煙支援などを組み合わせる包括的プログラムです。総コレステロールと中性脂肪の低下が報告される一方、HDL-C・LDL-Cの変化は一定していません。
問3
心リハの安全性についての説明として、最も適切なものはどれでしょうか。
- 有害事象の頻度が高いため、効果があっても勧めにくい
- 運動前のリスクと当日の状態を評価し、個別処方、必要な監視、中止判断、緊急時への備えのもとで実施してもリスクはゼロではない
- 運動負荷試験を行えば、重篤な事象は起こらないことが証明されている
- 安全性は心リハの効果とは無関係である
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正解:2
国内外の調査では、運動中の重篤な事象は少数でした。ただしこれらは施設単位の観察研究であり、リスクがゼロであることや、運動負荷試験が重篤な事象を防いだという因果関係を示すものではありません。運動前のリスクと当日の状態を評価し、個別処方、必要な監視、中止判断、緊急時への備えのもとで実施します。
あわせて読みたい
- 心リハのリスク管理(記事準備中)
- 運動療法の中止基準
- 心不全の心リハ(記事準備中)
- peak VO2とは
参考文献・出典
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン.
- 日本循環器学会/日本心不全学会. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(2025年). 第11章4.4、推奨表81.
- 日本心臓リハビリテーション学会編. 心臓リハビリテーション必携 —指導士資格認定試験準拠— 2022年増補改訂版(2022年). Ⅳ章 心臓リハビリテーション総論.
- O'Connor GT, et al. An overview of randomized trials of rehabilitation with exercise after myocardial infarction. Circulation. 1989;80(2):234–244.
- Taylor RS, et al. Exercise-Based Rehabilitation for Patients with Coronary Heart Disease. American Journal of Medicine. 2004;116:682–692.
- Davey P, et al. British Heart Journal. 1992;68:473–477.
- O'Connor CM, et al. Efficacy and safety of exercise training in patients with chronic heart failure: HF-ACTION randomized controlled trial. JAMA(2009年).
- Sagar VA, et al. Exercise-based rehabilitation for heart failure: systematic review and meta-analysis. Open Heart(2015年).
- Van Camp SP, Peterson RA. Cardiovascular Complications of Outpatient Cardiac Rehabilitation Programs. JAMA. 1986;256:1160–1163.
- Saito M, et al. Safety of Exercise-Based Cardiac Rehabilitation and Exercise Testing for Cardiac Patients in Japan. Circulation Journal. 2014;78:1646–1653.
よくある質問
Q. 運動すると心臓に負担がかかって悪くなりませんか?
A. 2014年の全国施設調査では、回復期心リハ136施設の383,096患者・時間において、運動中の有害事象は12件、生命を脅かす事象は1件で、運動中の死亡は報告されませんでした。ただしこれは施設単位の観察研究であり、リスクがゼロであることを示すものではありません。安全に行うには、運動前のリスクと当日の状態を確認し、個別の運動処方と必要な監視のもとで実施します。症状や所見に応じて中止を判断し、緊急時に対応できる備えも必要です。
Q. 運動の効果はどれくらいで出ますか?
A. 原典で一律の期間は確認できませんでした。心不全の運動療法では、効果と安全性を定期的に確認し、状態に応じて運動処方を見直します。
Q. 運動療法で心臓の動き(駆出率)がよくなるということですか?
A. 必ずしもそうではありません。とくに安定した慢性心不全では、安静時の左室駆出率の変化は小さいことが多いと報告されています。運動耐容能が改善する背景には、血管内皮機能や血流分配といった末梢循環の変化と、骨格筋の毛細血管密度・ミトコンドリアの増加といった適応が大きく寄与すると考えられています。心機能が大きく変わらなくても運動耐容能は改善しうる、という点が心リハの重要なポイントです。
この記事を書いた人
心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士
循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。
- 理学療法士(臨床経験10年以上)
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 地域糖尿病療養指導士
内容の誤りにお気づきの際は、お問い合わせフォームからお知らせください。確認のうえ修正し、最終更新日を更新します。
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