歩行ガイド心リハとは?2026年版の重要ポイント5つ
日本心臓リハビリテーション学会が、「歩行ガイド心臓リハビリテーションハンドブック」を公開しました。冊子の発行は2026年7月17日、学会サイトでの公開は2026年8月19日です。
テーマは、高齢、フレイル(加齢に伴って心身の予備力が低下した状態)、多疾患併存などにより身体機能が低下した心疾患患者への心リハです。CPX(心肺運動負荷試験)を前提にした方法だけでは対応が難しい患者層を対象にしています。
全87ページのうち、この記事では初めて読む人に必要な5点を紹介します。詳しい評価尺度や到達目安は原本で確認してください。
この記事は、当サイトが学習用に作成した非公式の紹介です。学会の公式見解ではありません。本文と図は原本をそのまま掲載せず、当サイトで要点を整理しています。実際の運用では、原本、自施設の基準、医師の指示を優先してください。
ポイント1:CPXを置き換える方法ではない
まず、CPXとの関係を整理します。
CPXを行いにくい時期でも、歩行や生活機能を手がかりに心リハを組み立てられます。患者の状態や目標が変われば、CPXを用いる方法へ移ることもあります。どちらか一方に決めるのではなく、その時点に合う方法を選びます。
ADL(日常生活動作)が改善した後に、CPXを実施できる患者もいます。

図1 当サイト作成。原本の記載をもとに、当サイト独自の比較軸で整理。
在宅医療や介護保険サービスとの連携にも触れていますが、具体的な接続方法は詳しく扱われていません。ハンドブックが主に扱うのは、急性期から回復期(包括期)にかけての実践です。回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟も想定されています。
心リハの全体像は心臓リハビリテーションとはで整理しています。
ポイント2:「歩行」を多職種の共通言語にする
歩行ガイド心リハは、歩行訓練を中心に行う方法ではありません。
歩行能力は、運動耐容能と生活機能の両方を反映します。医療者だけでなく、患者本人、家族、介護スタッフも含めて、評価結果と目標を共有するための指標として用います。
実際に行う訓練は、歩行だけではありません。レジスタンストレーニング、バランス練習、起立・移乗動作の練習など、複数の運動を組み合わせます。医学的管理・リスク因子の是正・患者教育を多職種で行う点は、従来の包括的心リハと変わりません。
たとえば、「もう少し歩けるようにする」という目標を、「どの生活範囲まで戻るか」という具体的な目標に置き換えられます。これにより、職種が異なっても目標を共有しやすくなります。
ポイント3:歩行ステータスA〜Dで生活機能をみる
歩行ステータスは、どれだけ歩けて、どれだけ自分の力で生活できるかを、A〜Dの4段階で表す指標です。
- A:長距離歩行が自立し、屋外活動を含めて自力で生活できる段階
- B:中距離歩行が自立し、屋外活動も可能な段階
- C:短距離の歩行が可能で、家庭内の生活が送れる段階
- D:歩行が困難、または歩行に常時介助を要する段階
Bでは階段で軽介助を受ける場合、Cでは補助具や見守りを利用する場合も含まれます。歩行距離だけで区分せず、身体機能、併存疾患、認知面、生活環境も合わせて評価します。
この4段階を使うと、病前の生活、現在の状態、次の目標をA〜Dで並べて共有できます。たとえば「屋内中心のCから、外出を含むBを目指す」と具体的に表現できます。
支援の量が多いB・Cの段階でも、予後がよくなる可能性は変わりません。ステータスだけを理由に、期待できる効果を限定して考えないことが大切です。
ポイント4:訓練ステップ1〜4で介入の段階をみる
歩行ステータスが現在の生活範囲を表す一方、訓練ステップは現在の訓練段階を表します。
- ステップ1(歩行準備期):ベッドから起き、立った姿勢を保てる状態を目指します
- ステップ2(短距離歩行期):立つ・移る動作を自分で行い、短い距離から歩行を取り戻します
- ステップ3(中距離歩行期):歩き方を安定させ、歩ける時間や距離を延ばします
- ステップ4(長距離歩行期):生活範囲を広げ、状態に応じてCPXを用いた評価や運動処方へ移ります
原本には、各ステップの参考となる身体機能・歩行指標の目安も示されています。ただし施設や地域で使用する評価尺度は異なるため、ハンドブックは各施設で用いている指標を尊重するよう求めています。具体的な数値は原本で確認してください。

図2 当サイト作成。2つの指標の役割の違いを、当サイト独自の切り口で整理。
歩行ステータスと訓練ステップは、おおむね連動しますが一対一には対応しません。全身状態が異なれば、同じステータスでも取り組む訓練の段階は変わります。そのため、両者を分けて把握します。
ポイント5:歩行だけでなく、患者全体をみる
歩行ガイド心リハでは、歩行能力だけでなく、栄養状態と摂食嚥下機能、せん妄のリスク、認知機能、活動意欲も確認します。初回評価では、身体機能から社会参加までを多面的に捉える枠組みが提案されています。

図3 当サイト作成。原本が挙げる評価項目を、当サイト独自の4分類で整理。
認知機能や意欲が低下し、本人が機能改善を望んでいないときは、ADL向上を目標に一律で進めることはしません。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)を通じて本人の意思や価値観を確認し、目標と介入方針を決めます。
エビデンスはどこまで揃っているか
歩行ガイド心リハには、対象層によって研究の蓄積に差があります。
- ADLの低下が軽度〜中等度の患者:REHAB-HF試験とPIpELINe試験を根拠に、複数の運動を組み合わせた介入や、運動・栄養・心理・教育などを組み合わせた支援について、ハンドブックはエビデンスレベルAと評価しています。
- 移動に介助を要する患者から歩行できない患者まで:この範囲に限った介入研究は、ハンドブックの検討では確認されていません。ここが「エビデンスの空白域(evidence gap)」にあたります。
ハンドブックは一律の運動プロトコールを示していません。患者ごとの評価と安全確認を行い、施設の状況に合わせて介入内容を決める必要があります。
まとめ
- CPXの代替ではありません。CPXの適用が難しい時期は生活機能を軸に進め、状態が整えばCPXにつなぎます
- 歩行ステータスと訓練ステップは役割が異なります。両者はおおむね連動しますが、一対一には対応しません
- 歩行能力以外の評価も必要です。栄養・嚥下、認知、せん妄、意欲、生活環境、本人の希望を確認して方針を決めます
症例解説や評価指標の詳細は、学会が公開している原本のPDFで確認できます。
理解確認問題
問題1
歩行ガイド心リハにおける「歩行」の位置づけとして、最も適切なものはどれですか。
- A. 歩行訓練のみで構成されるプログラムである
- B. 運動耐容能と生活機能の両方をあわせて捉え、チームが評価や目標を共有するためのガイド指標である
- C. CPXが実施できない場合に代わりに行う検査の名称である
- D. 歩行速度が基準値を下回る患者を心リハから除外するための指標である
答えと解説
答え:B
歩行は、運動耐容能と生活機能を一緒に確認し、チームで目標を共有するための指標です。実際の訓練では、歩行以外にも筋力、バランス、起立・移乗などを組み合わせます。歩行訓練だけとするAは誤りです。歩行ガイドは検査の名称ではないためCも誤りで、患者を心リハから除外する基準でもないためDも誤りです。
問題2
歩行ステータスと訓練ステップの使い分けについて、最も適切なものはどれですか。
- A. 歩行ステータスが決まれば、訓練ステップも必ず一つに決まる
- B. 歩行ステータスは訓練内容を、訓練ステップは生活範囲を表す
- C. 両者はおおむね連動するが、全身状態によって組み合わせが異なる
- D. 訓練ステップは歩行距離だけで決める
答えと解説
答え:C
歩行ステータスは生活範囲、訓練ステップは現在の訓練段階を表します。両者はおおむね連動しますが、一対一には対応しません。同じ歩行ステータスでも全身状態が異なれば、取り組む訓練ステップは変わります。そのためA、B、Dは誤りです。
問題3
歩行能力が低下した患者の評価と目標設定として、最も適切なものはどれですか。
- A. 最大歩行距離だけをもとに区分し、その他の要因は区分後に確認する
- B. 本人が機能改善を望まなくても、ADL向上を一律の目標にする
- C. CPXを行いにくい間は、生活環境や本人の希望を評価に含めない
- D. 歩行能力に加えて、栄養、認知機能、生活環境、本人の希望なども確認する
答えと解説
答え:D
歩行能力だけで患者の状態や目標を決めると、必要な支援を見落とす可能性があります。栄養・嚥下、認知機能、せん妄のリスク、意欲、生活環境、本人の意思や価値観も確認します。ADL向上を一律の目標にはしないため、A、B、Cは誤りです。
参考文献・出典
よくある質問
Q. 歩行ガイド心リハは、CPXに基づく心リハの「簡易版」ですか?
A. いいえ。CPXに基づく心リハを一律に置き換えるものではありません。CPXが難しい時期の評価・介入に使い、状態が変わればCPXを含む方法へ移ることもあります。両者は患者の目標に応じて組み合わせる関係です。
Q. 歩行ステータスは歩行能力だけで決めてよいのですか?
A. いいえ。歩行は身体活動の一部を表す手がかりです。身体機能、併存疾患、認知・心理面、住環境や支援者の有無などを一緒に確認し、歩行だけで機械的に分類しないことが大切です。
Q. このハンドブックは在宅や介護保険サービスも扱っていますか?
A. 連携の重要性には触れていますが、具体的な接続方法は詳しく扱われていません。ハンドブックが中心に扱うのは、急性期から回復期(包括期)における実践です。介護保険サービスや在宅医療とのつなぎ方は、今後の課題です。
この記事を書いた人
心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士
循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。
- 理学療法士(臨床経験10年以上)
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 地域糖尿病療養指導士
関連記事
心不全の運動処方|CPXがない場合の運動強度の決め方
CPXが実施できない状況で、安定した心不全の運動強度をどう決めるかを整理します。Borg・心拍数・症状・β遮断薬や心房細動での注意点・6分間歩行試験・過負荷サインを組み合わせ、単一の数値だけで決めない考え方を初学者向けに解説します。
6分間歩行試験(6MWT)とは?中止基準と評価
6分間歩行試験(6MWT)は、6分間で歩けた距離から運動耐容能をみる簡便な検査です。心リハの初学者向けに、実施の流れ、確認する項目、休んだときの扱い、症状による中止基準、結果の見方、CPXとの使い分けをやさしく整理します。
METsとは?生活・運動強度の目安
METs(メッツ)の意味を、生活動作の目安とガイドラインで使われる2・6・6〜7 METの文脈から解説。peak VO2との換算や、心リハの生活指導で数値を扱う際の注意点も整理します。