心臓リハビリテーションとは?目的と効果
「心臓リハビリテーション(心リハ)」と聞くと、心臓の手術後に体を動かすプログラム、というイメージを持つ方が多いかもしれません。実際には、それだけを指す言葉ではなく、もう少し広い意味を持ちます。
この記事は、循環器リハビリに関わり始めた医療職(PT・OT・看護師など)向けの入門編です。「心リハとは何か」「何を目的に、どんな要素で構成されるのか」「どんな効果が期待されるのか」を、細かい各論に入る前の全体像として整理します。学習の順番は心リハ学習ロードマップもあわせてご覧ください。
心臓リハビリテーションとは
心臓リハビリテーションは、医学的評価にもとづく運動療法を中心に、患者教育・危険因子や生活習慣の管理・心理社会的支援などを組み合わせた包括的なプログラムです。単に体力を戻すだけでなく、再発・再入院リスクの低減をめざし、その人らしい生活や社会活動への復帰を支えます。
ここで大切なのは、「リハビリ=運動」ではないという点です。運動療法は重要な柱ですが、心リハ全体には次のような要素が含まれます。個々の患者さんに提供する内容は、病態・時期・課題に応じて組み合わせます。
- 運動療法 … 有酸素運動やレジスタンストレーニングを用いた個別の運動プログラム
- 患者教育 … 病気や薬、症状のセルフモニタリングの理解
- 生活習慣の改善 … 食事・禁煙・体重管理などの是正
- 心理的サポート … 不安・抑うつへの配慮とサポート
これらを、医師・看護師・理学療法士・薬剤師・管理栄養士などがチームで担うのが心リハの基本的な形です。
なお、心リハには古くから参照されている定義があります。米国の心臓リハビリテーション診療ガイドライン(1995年)で示され、日本の成書でも引用されているもので、医学的評価・運動処方・冠危険因子の是正・教育・カウンセリング・行動的介入からなる、長期的で包括的なサービスとして位置づけられています。目的としては、適切に選択された患者において、心疾患による身体的・心理的な影響を軽減すること、突然死や再梗塞のリスクを下げること、心症状をコントロールすること、動脈硬化の過程を安定化または退縮させること、心理社会的・職業的な状況を改善することが挙げられています。これらはプログラムがめざす方向であり、個々の患者さんで達成を保証するものではありません。
上に並べた4つの要素は、原定義の逐語的な分類ではなく、入門向けにまとめたものです。医学的評価はすべての要素の土台にあり、カウンセリングや行動的介入は、患者教育・生活習慣の改善・心理的サポートにまたがります。
押さえておきたいのは、医学的評価と処方された運動が別々に挙げられていることです。運動療法では医学的評価にもとづき、患者さんごとに内容を調整します。また、教育やカウンセリングと並んで行動的介入が挙げられています。これは知識提供にとどまらず、実行可能な行動を選び、継続できるよう支援する介入も含むという意味です。実際に行動変容が達成されることを、心リハの成立条件とするものではありません。

4つの要素をもう少し詳しく
運動療法は、有酸素運動を中心に、必要に応じてレジスタンストレーニングを組み合わせます。目的は「体力をつける」だけではありません。運動耐容能が上がることで同じ生活動作が楽になり、活動量が保たれ、結果として再入院の予防にもつながる、という流れを意識すると位置づけが分かりやすくなります。強度の決め方は個別性が大きく、CPXの結果や自覚的運動強度をもとに設定します。
患者教育は、病気そのものや薬の理解に加えて、自分の状態の変化に自分で気づけるようになることをめざします。体重を毎日測る、むくみや息切れの変化に気づく、といったセルフモニタリングは、退院後の再入院予防に直結します。医療者が見ていない時間のほうが圧倒的に長いためです。
生活習慣の改善は、食事・禁煙・体重管理などを指します。ここは知識を伝えるだけでは動かない領域で、その人の生活背景に合わせて実行可能な形に落とし込む必要があります。管理栄養士など他職種との連携が効いてくる部分です。
心理的サポートは見落とされやすい要素です。心臓の病気を経験すると、「また倒れるのではないか」という不安から活動を避けてしまうことがあります。この不安が続くと、体力が落ちてさらに動けなくなる、という悪循環に入りかねません。運動を通じて「これだけ動いても大丈夫だった」という経験を積むこと自体が、心理面への働きかけにもなります。
なぜ運動療法だけでは足りないのか
ここまで読むと、「運動療法にも生活指導の要素や心理面への効果があるのなら、運動を中心に据えれば十分ではないか」と思えるかもしれません。それでも包括的なプログラムとされているのには、実務的な理由があります。運動療法だけでは届かない領域がはっきりあるからです。
わかりやすいのが危険因子の管理です。冠危険因子のうち、体重管理や禁煙は、運動療法だけで長期的に管理していくのが難しいとされています。運動を続けていても食事の内容が変わらなければ体重は動きませんし、禁煙にいたっては運動とは別の働きかけが要ります。ここに患者教育や食事療法が組み合わさって、はじめて危険因子の是正が現実的になります。
心理面も同じ構造です。先に触れたとおり、運動を通じて自信が戻る側面は確かにあります。ただし不安や抑うつは、運動療法だけでは十分に改善しきれない場合も少なくありません。そうしたケースでは、心理社会的な介入を組み合わせる必要が出てきます。
つまり「包括的」とは、要素を並べて手厚く見せるための言葉ではありません。運動療法だけでは埋まらない部分があるから、他の要素で埋めているという、必然性のある構成です。
なぜ「チームで」なのか
上の4つを見ると、1つの職種で完結する要素がひとつもないことが分かります。運動処方には医師の管理が要り、生活指導には栄養や薬剤の知識が要り、日々の状態把握には看護の視点が要ります。包括的プログラムであることと、多職種で担うことは表裏一体です。
リハ職はこの中で運動療法を中心に担いますが、患者さんと接する時間が長い職種でもあります。運動中の会話から生活の様子や不安が見えることも多く、気づいた情報を他職種につなぐ役割も担っています。
また、心リハはリハ職だけが実施するものではありません。これは制度にもはっきり表れています。脳血管疾患等や運動器などの疾患別リハビリテーションは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の監視下で行われたものを算定する、と定められています。ところが心大血管疾患リハビリテーションだけはこの規定から外れており、専任の医師の指導管理のもとで実施する、という形になっています。施設基準でも、従事者として理学療法士と看護師が並べて挙げられています。
つまり看護師は、制度の上でも心リハの実施を担う職種です。運動療法の場面だけを心リハと捉えると見えにくいのですが、日々の状態把握やセルフモニタリングの指導まで含めて考えると、看護師が担っている部分の大きさが見えてきます。
心リハが「包括的」になるまで
いまでこそ早期離床は当たり前ですが、かつては正反対でした。20世紀前半の欧米では、急性心筋梗塞の後は数週間にわたってベッド上で安静を保つことが標準的な対応だったとされています。
ところが1950年代に入ると、椅子に座らせる、早期に歩かせるといった実践が試みられるようになります。LevineとLownが1952年に報告した「アームチェア治療」はその代表例です。安静そのものが引き起こす問題が、現場レベルで意識されはじめた時期といえます。
この実践を裏づけるように、1960年代には安静の影響を定量的に検討する研究が登場します。Saltinらが1968年に報告した研究では、健康な成人を対象に、長期の安静によって運動耐容能が低下することが生理学的に確認されました。ここから、安静に伴う体力低下や筋萎縮などを指す「デコンディショニング」という概念が定着していきます。興味深いのは、早期離床という実践のほうが、それを裏づける研究より先に進んでいたという点です。
つまり心リハは、もともと「安静の害を防ぐために動かす」ところから始まったわけです。その後、動かすだけでは再発を防げないことがわかってくるにつれて、危険因子の管理・患者教育・心理面への配慮が加わり、いまの包括的なプログラムの形になりました。
冒頭で触れた「心リハ=術後に体を動かすプログラム」というイメージは、実は初期の心リハの姿に近いものです。そこから何が足されてきたのかを知っておくと、「包括的プログラム」という言葉が具体的に見えてきます。

心リハの目的
心リハの目的は、大きく次の3つに整理できます。
- デコンディショニングの是正と社会復帰 — 入院や安静で低下した状態を立て直し、日常生活や仕事に戻れるようにする。ここで立て直す対象は体力だけではありません。デコンディショニングには身体面と精神面の両方があるとされ、不安や落ち込みも是正の対象に含まれます。
- 危険因子の是正と再発・再入院の予防(二次予防) — 危険因子(高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙など)を管理し、病気の進行や再発を防ぐ。
- 生活の質(QOL)の向上 — 長生きできるかどうかだけを見るのではなく、本人が感じる日々の暮らしやすさそのものを改善の対象にする。
この3つを、先ほどの4つの要素と重ねると対応関係が見えてきます。運動療法は主に1つめを、生活習慣の改善と患者教育は2つめを、心理的サポートは1つめの精神面と3つめを担います。4つの要素はばらばらに並んでいるのではなく、それぞれが目的のどこかに紐づいています。
とくに近年は、心筋梗塞後などの「回復」だけでなく、心不全患者の再入院予防や予後改善を目的とした心リハの重要性が強調されています。
期待される効果
ガイドラインでは、心疾患をもつ人に対する心リハの効果として、運動耐容能の改善や生活の質の向上、危険因子の改善などが示されています。心不全などの領域では、再入院や予後との関連についても検討が重ねられてきました。
ただし、効果の程度や適応は病態・重症度によって異なり、個々の患者さんに一律に当てはめられるものではありません。「必ず良くなる」といった断定はできないという前提で、一人ひとりの状態に合わせて進めることが大切です。効果の裏づけや適応の詳細は、必ず最新のガイドライン・成書で確認してください。
運動療法によって何がどう変わるのか、その中身は心リハの運動療法に期待される効果で詳しく整理します。
心リハの対象と時期
心リハの対象となるのは、心筋梗塞・狭心症・心臓手術後・心不全・末梢動脈疾患など、幅広い循環器疾患です。対象疾患の全体像は心リハの対象疾患で詳しく整理します。
また心リハは、急性期・回復期・維持期といった時期(相)によって内容が変わります。この考え方は心リハの時期区分で扱います。
なお、心リハを保険診療として行う場合は「心大血管疾患リハビリテーション料」として算定され、対象となる疾患や施設基準が制度上定められています。臨床的に心リハが有用とされる範囲と、保険で算定できる範囲は重なりますが、同じではありません。制度の枠組みは心大血管疾患リハ料の基礎で整理します(点数や要件は改定で変わるため、実際の運用では必ず最新の点数表を確認してください)。
リハ職として押さえておきたいこと
私自身、はじめは回復期の病棟で働いていました。そこでは離床させることがすべてで、負荷をかけていくのが当たり前でした。ところが心疾患の患者さんを受け持つようになると、本当に動かしていいのかが分からず、不安になることがありました。
現場でリハ職(PT・OTなど)がまず意識したいのは、安全に運動を進めるためのリスク管理です。運動を「どこまで行ってよいか」「どんなときに中止するか」の基準を理解しておくことが、心リハの土台になります。逆に言えば、この基準を持たないままでは、さきほどの不安は消えません。
まとめ
- 心リハは運動療法+患者教育+生活指導+心理的サポートの包括的プログラム。
- 包括的なのは手厚く見せるためではなく、体重管理・禁煙・不安など運動療法だけでは届かない領域があるから。
- 心リハは「安静の害を防ぐために動かす」ところから始まり、再発予防の要素が加わって今の形になった。
- 目的は「デコンディショニングの是正と社会復帰」「危険因子の是正と再発予防(二次予防)」「QOL向上」の3つ。デコンディショニングには精神面も含まれる。
- 効果はガイドラインで示されているが、病態・重症度により異なり、断定はしない。
- リハ職はまずリスク管理の基本を押さえることが土台になる。
理解確認問題
問1
心臓リハビリテーションの説明として、最も適切なのはどれでしょうか。
- 手術後に体力を戻すための運動プログラムを指す
- 運動療法に加えて、患者教育・生活習慣の改善・心理的サポートなどを組み合わせた包括的なプログラムを指す
- 医師の指示のもと、理学療法士が単独で行うプログラムを指す
- 退院後の外来でのみ行われるプログラムを指す
正解:2
心リハは運動療法を中心としつつ、患者教育・生活習慣の改善・心理的サポートなどを組み合わせた包括的なプログラムです。運動療法は重要な柱のひとつですが、心リハ全体はそこにとどまりません。個々の患者さんに提供する内容は、病態や時期に応じて組み合わせが変わります。
問2
心リハの目的の説明として、最も適切なのはどれでしょうか。
- 低下した身体機能の回復のみを目的とする
- 身体面・精神面のデコンディショニングの是正と社会復帰、危険因子の是正と再発予防、生活の質の向上を目的とする
- 心疾患を完治させることを目的とする
- 入院期間の短縮のみを目的とする
正解:2
心リハの目的は大きく「デコンディショニングの是正と社会復帰」「危険因子の是正と再発・再入院の予防(二次予防)」「生活の質(QOL)の向上」の3つに整理できます。低下するのは体力だけでなく、不安や落ち込みといった精神面も含まれる点がポイントです。また、病気を完治させるものではありません。
問3
心リハの効果についての説明として、最も適切なのはどれでしょうか。
- すべての患者さんに同じ効果が必ず得られる
- 効果の程度や適応は病態・重症度によって異なるため、個々の状態に合わせて進める
- 効果は示されていないため、実施する意義は乏しい
- 効果が示されているので、状態評価をせずに一律の内容で実施してよい
正解:2
ガイドラインでは運動耐容能の改善や生活の質の向上などが示されていますが、効果の程度や適応は病態・重症度によって異なります。一律に当てはめられるものではないため、一人ひとりの状態に合わせて進めます。
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参考文献・出典
- 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン.
- 日本心臓リハビリテーション学会 編「心臓リハビリテーション必携」増補改訂版(2022年) IV章 心臓リハビリテーション総論
- Agency for Health Care Policy and Research (US). Cardiac Rehabilitation as Secondary Prevention: Quick Reference Guide Number 17. 1995. AHCPR Publication No.96-0673.
- Levine SA, Lown B. "Armchair" Treatment of Acute Coronary Thrombosis. JAMA. 1952;148(16):1365-1369.
- Saltin B, Blomqvist G, Mitchell JH, et al. Response to Exercise After Bed Rest and After Training. Circulation. 1968;38(5 Suppl):VII1-VII78.
- 厚生労働省. 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(令和8年3月5日保医発0305第6号、2026年7月30日訂正後) 医科点数表.
- 厚生労働省. 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和8年3月5日保医発0305第8号、2026年7月30日訂正後).
よくある質問
Q. 心臓リハビリテーションは「運動」だけを指すのですか?
A. いいえ。運動療法は中心的な要素の一つですが、心臓リハビリテーション全体は運動だけを意味しません。患者ごとの病態や時期に応じて、医学的評価、患者教育、危険因子・生活習慣の管理、心理社会的支援などを組み合わせます。多職種で連携して進めるのが基本です。
Q. 心リハは誰が担当するのですか?
A. 医師の医学的管理のもと、理学療法士・看護師・作業療法士・薬剤師・管理栄養士・臨床検査技師・心理職などが、患者さんの病態や課題に応じて関わります。職種ごとに役割を分担しながら、回復、社会復帰、再発・再入院リスクの低減を支えます。
この記事を書いた人
心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士
循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。
- 理学療法士(臨床経験10年以上)
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 地域糖尿病療養指導士
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