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心リハの基礎

心不全の運動処方|CPXがない場合の運動強度の決め方

公開日・最終更新日:

「CPXがないと、心不全の患者さんの運動強度は決められないのだろうか」——心臓リハビリテーションに関わり始めると、一度はぶつかる疑問です。CPX(心肺運動負荷試験)を置いている施設ばかりではありません。

結論から言うと、CPXがなくても運動強度を決めることはできます。ただし、Borgや心拍数といった一つの数値だけを取り出して機械的に当てはめるのではなく、症状・バイタル・自覚的な強さ・基礎疾患や服薬をあわせて見ながら決めていきます。この記事では、その考え方と手順を初学者向けに整理します。対象は安定した慢性心不全で、急性増悪期や離床の進め方は心不全の心リハにゆずります。

この記事は学習用の一般的な整理です。実際の運用では、必ず自施設の基準・医師の指示に従ってください。

CPXがなくても運動強度は決められる?

まず前提として、禁忌がなければ、CPXが実施できない場合でも、安定した慢性心不全に対して運動療法を行うことがガイドラインで勧められています。「CPXがないから運動はできない」ではありません。

そのうえで強度の決め方です。運動強度の設定は、可能ならCPX、とくにAT(嫌気性代謝閾値)にもとづく方法が優先されます。CPXが実施できないときは、心拍数・自覚的運動強度(Borg)・症状といった代替の指標を使って設定します

ここで押さえておきたいのは、代替指標は「どれか一つを絶対の処方値にする」ものではない、という点です。それぞれに得意なところと限界があり、患者さんの状態や服薬によって使いやすさも変わります。複数の情報を突き合わせて、無理のない強度に落とし込んでいきます。

結局どうする? CPXがなくても運動はできる。強度はBorg・心拍数・症状を組み合わせて決める、とまず押さえます。

CPX が実施できないときの運動強度設定を示した概念図。「運動強度は一つの数値だけで決めない」という中心メッセージの下に、自覚的運動強度(Borg)、心拍数には複数の考え方があること、症状やバイタルと運動中の反応、β遮断薬や心房細動での心拍数解釈の制約、6分間歩行試験などによる運動耐容能の評価を、縦に配置している。

図1 当サイト作成。心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会, 2021年改訂版, 表16・表18・表34・表37・図12)および2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(日本循環器学会/日本心不全学会, 推奨表13)をもとに整理。

強度を決める前に、始めてよい状態かを確かめる

強度の数字を考えるより先に、その日に運動を始めてよい状態かを確認します。具体的には、運動療法の禁忌に当たらないか、自覚症状、安静時のバイタルサイン、身体所見、服薬内容、基礎疾患を確認します。禁忌の詳しい一覧は運動療法の禁忌にまとめています。

この確認を飛ばして強度だけ合わせても、安全にはつながりません。「今日は動かしてよい状態か」を毎回みる。非CPXの処方では、これが土台になります。

CPXがないときに軸になるのはBorg

CPXがないとき、まず頼りになるのが自覚的運動強度(Borg指数)です。CPXが実施できない場合の心不全の運動強度の目安として、6〜20のBorgスケールで11〜13が用いられます。11〜13は「楽である」から「ややつらい」程度にあたります。

Borgのよいところは、特別な機器がなくても運動中にその場で確認できることです。数字を紙に書いて終わりにせず、運動しながら「今どのくらいですか」と聞き、13を明らかに超えて重い・息が続かないといった訴えがあれば強度を下げます。逆に11に届かず余裕が大きすぎるようなら、状態を見ながら少しずつ上げます。

Borgスケールそのもの(6〜20と修正版の違い、聞き方)はボルグスケールで解説しています。なお、ここでの11〜13は「CPXが実施できない慢性心不全での目安」です。ほかの場面で使われる数字と混ぜないようにします。

結局どうする? Borg 11〜13を目安に、運動中の本人の言葉で確認しながら微調整します。

心拍数を強度の目安にするときの考え方

心拍数も使えますが、心不全では「この式に当てはめれば正解」という単一の値にはなりません。使われ方はいくつかあります。

  • カルボーネン法(心拍数予備能)を用いる場合 … 心不全では係数k=0.3〜0.5程度が目安とされます。前提として、運動負荷試験で実測した最高心拍数が必要です。CPXでATが得られるなら、そちらを優先します。計算の手順や係数の考え方はカルボーネン法にまとめています。
  • 簡易な心拍処方を用いる場合 … 安静座位時の心拍数から20〜30/min程度の増加を目安とし、かつ運動時の心拍数が120/min以下の範囲で用います。増加幅の目安と120/minという上限はセットで扱う一つの処方であり、どちらか一方だけを取り出して使うものではありません。

カルボーネン法と簡易な心拍処方は別々の方法で、一つに統合された「正解の心拍数」があるわけではありません。どちらを主に使うかは、患者さんの状態・リズム・服薬によって変わります。

β遮断薬や心房細動では心拍数だけで判断しない

心不全の患者さんは、心拍数の見え方が変わる条件を持っていることが少なくありません。

β遮断薬を内服している場合、目標心拍数は予測式で出すのではなく、服薬した状態で実際に測った心拍応答にもとづいて設定します。「β遮断薬だから心拍数は使えない」と切り捨てるのではなく、服薬下の実測を基準にする、という向きです。

心房細動がある場合、運動負荷に対する心拍数上昇の程度が大きいことが多く、その反応は患者ごと、また体調によっても異なるため、心拍数にもとづく運動強度の設定は難しくなります。前述の簡易な心拍処方は心房細動のある患者には使えません。そのため、心拍数の数値だけを機械的に処方値として扱わないようにします。

どちらも、心拍数を一つだけ見て強度を決めない、という原則がそのまま当てはまる場面です。

6分間歩行試験はどう使うか

CPXが実施できないとき、6分間歩行試験(6MWT)などの運動試験を、運動耐容能を評価する手段として考慮します。何も測らずに強度を決めるより、歩けた距離という客観的な情報を一つ持っておけます。

ただし、6MWTの距離から運動強度を機械的に換算する方法を、ここで示すことはしません。6MWTの実施手順・中止基準・結果の見方は6分間歩行試験にゆずります。

低強度から始めて、反応を見ながら上げる

非CPXの処方で安全側に置くコツは、低強度・短時間から始め、症状・バイタル・自覚強度の反応を見ながら段階的に上げていくことです。

はじめから目標値ぴったりを狙うのではなく、低めに設定して数回のセッションで様子をみます。問題がなければ、時間や強度を少しずつ足していきます。反応の確認を挟まずに上げないことが、この進め方の要点です。

CPX が実施できない場合に運動強度を決める流れを示した図。始めてよい状態かを確認し、Borg・心拍数・症状などの代替指標で強度を設定し、低強度・短時間から開始して反応を確認する。問題がなければ維持・漸増、異常な反応があれば減量・調整、中止基準に該当すれば中止する。加えて独立した3つの分岐として、運動時の心筋虚血が疑われる場合は医師による評価または適切な追加評価を検討し、重症または運動誘発性の不整脈が疑われる場合も医師による評価または適切な追加評価を検討し、AT や peak VO2 など客観的な運動強度・運動耐容能の指標が必要な場合は CPX を検討する。

図2 当サイト作成。心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会, 2021年改訂版, 表16・表18・表33・表37・図12)および2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(日本循環器学会/日本心不全学会, 推奨表13)をもとに整理。

「負荷が過大」のサインと、そのときの対応

漸増していく過程では、負荷が過大になっていないかを毎回チェックします。

過大を示唆する所見

心不全の運動療法では、体重、症状、運動中の反応など複数の所見から、負荷が過大になっていないかを確認します。一つの所見だけで機械的に判断はしません。ガイドライン(JCS/JACR 2021の表37)には、次のような所見が挙げられています。

  • 3日間で2kg以上の体重増加(直ちに対応)、または7日間で2kg以上の体重増加(監視強化)
  • 運動強度の漸増にもかかわらず収縮期血圧が20mmHg以上低下し、末梢冷感など末梢循環不良を伴う
  • 同一運動強度での胸部自覚症状の増悪
  • 同一運動強度で10/min以上の心拍数上昇
  • 同一運動強度で2段階以上のBorg指数の上昇
  • SpO2が90%未満へ低下、または安静時から5%以上の低下
  • 新たな不整脈の出現
  • 心電図で1mm以上のST低下

一覧の背景や図解は心不全の心リハにまとめています。

所見が出たときの対応

運動中に症状や循環・呼吸の反応に異常がみられたら、その反応に応じて強度を下げる・調整します。そして、運動療法の中止基準に当てはまる場合は運動を中止します。中止基準そのものは運動療法の中止基準を参照してください。ここで基準の表は再掲しません。

CPXや追加の評価を考えるのはどんなとき

非CPXの指標だけで進めるのが適切でない場面もあります。次のようなときは、その指標だけで強度を決めず、医師による評価や適切な追加評価につなぎます。

  • 運動時の心筋虚血が疑われる、または虚血リスクの追加評価が必要なとき
  • 重症の不整脈や、運動で誘発される不整脈が疑われるとき
  • ATやpeak VO2など、生理学的な運動強度・運動耐容能の指標を客観的に把握する必要があるときは、CPXを検討します

CPXが使える場合のAT基準の処方はATとは、CPXの実際の流れはCPX実技を参照してください。

まとめ

  • CPXがなくても、禁忌がなければ安定した慢性心不全に運動療法は行える。強度はBorg・心拍数・症状などの代替指標で決める。
  • 強度の数字より先に、その日に始めてよい状態か(禁忌・症状・バイタル・身体所見・服薬・基礎疾患)を確認する。
  • Borgは11〜13が目安。心拍数はカルボーネン法(k=0.3〜0.5)、または安静座位時+20〜30/min程度かつ運動時120/min以下の簡易処方など複数の方法があり、一つの絶対値ではない。
  • β遮断薬では服薬下の実測を基準に、心房細動では心拍数の解釈に制約がある。心拍数だけで決めない。
  • 低強度から始めて反応をみて漸増する。体重・血圧・症状・心拍数・Borg・SpO2・心電図の所見で過負荷を確認し、異常があれば減量、中止基準に該当すれば中止する。
  • 虚血や不整脈が疑われるとき、客観的な生理指標が必要なときは、医師評価やCPXにつなぐ。

理解確認問題

問1

CPXの設備がない外来で、安定した慢性心不全の患者さんの有酸素運動の強度を決める場面です。最も適切な考え方はどれでしょうか。

  1. CPXがないため運動療法は見送る
  2. Borg 11〜13を目安に、心拍数や症状もあわせて確認しながら設定する
  3. 予測最高心拍数の85%を計算し、その値だけで管理する
  4. 患者さんが希望する強度をそのまま採用する

正解:2

CPXが実施できない場合の心不全の運動強度の目安として、6〜20のBorgスケールで11〜13が用いられます。心拍数や症状も組み合わせて確認し、一つの数値だけで機械的に決めないことがポイントです。

問2

β遮断薬を内服している慢性心不全の患者さんです。目標心拍数の決め方として適切なのはどれでしょうか。

  1. 予測式で最高心拍数を出し、そこから逆算する
  2. 服薬した状態で実際に測定した心拍応答をもとに設定する
  3. β遮断薬内服中は心拍数を一切使わない
  4. 内服のない人と同じ目標値を使う

正解:2

β遮断薬内服下では、予測式ではなく服薬中の実測心拍応答にもとづいて目標心拍数を設定します。心拍数を完全に捨てるのではなく、実測を基準にするという考え方です。

問3

慢性心不全の外来心リハで、前回と同じ強度の自転車エルゴメータを行ったところ、心拍数が前回より12/min高く、Borgも2段階上がっていました。どう受け止めるのがよいでしょうか。

  1. 数値が基準内なら、前回との違いは考えなくてよい
  2. 同一強度での心拍数上昇やBorg上昇は、負荷が過大な可能性を示す所見なので、評価して報告する
  3. 慣れの問題なので強度を上げる
  4. Borgは主観なので無視する

正解:2

同一運動強度での10/min以上の心拍数上昇、2段階以上のBorg指数の上昇は、いずれも運動負荷が過大であることを示唆する所見です。単独の所見だけで判断せず、体重や症状などとあわせて確認し、報告します。

あわせて読みたい

  • 心不全の心リハ
  • 運動療法の禁忌
  • 運動療法の中止基準
  • ボルグスケール
  • カルボーネン法
  • 6分間歩行試験

参考文献・出典

  1. 日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン. 第2章・第3章(表16・表18)・第4章(表33〜35・表37)・第6章(§1.1.2).
  2. 日本循環器学会/日本心不全学会. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン. 第4章(推奨表13)・第11章(推奨表81).
  3. 日本心臓リハビリテーション学会編. 心臓リハビリテーション必携 —指導士資格認定試験準拠— 2022年増補改訂版(2022年). Ⅴ章 心臓リハビリテーション各論.
  4. 日本心臓リハビリテーション学会. 心不全の心臓リハビリテーション標準プログラム(2017年版).

よくある質問

Q. CPXの設備がない施設では、心不全の運動療法はできないのですか?

A. 禁忌がなければ、CPX(心肺運動負荷試験)が実施できない場合でも、安定した慢性心不全に対して運動療法を行うことがガイドラインで勧められています。運動強度の設定は可能ならCPX、とくにAT(嫌気性代謝閾値)にもとづく方法が優先されますが、実施できないときは心拍数・自覚的運動強度(Borg)・症状などの代替指標を組み合わせて設定します。

Q. CPXがないとき、心拍数の目標はどう決めればよいですか?

A. 一つの計算式で決まる値があるわけではありません。カルボーネン法(心拍数予備能)を用いる場合は心不全では係数k=0.3〜0.5程度が目安とされ、実測した最高心拍数が前提になります。ほかに、安静座位時心拍数から20〜30/min程度の増加を目安とし、かつ運動時心拍数が120/min以下となる範囲で用いる簡易な設定もあります。どれを主に使うかは患者さんの状態・リズム・服薬によって変わり、心拍数だけで強度を決めないことが前提です。

この記事を書いた人

心リハラボ管理人のプロフィールイラスト

心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士

循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。

  • 理学療法士(臨床経験10年以上)
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 地域糖尿病療養指導士
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