心不全の栄養ステートメント2026|改訂の要点5つ
2026年10月23日、日本心不全学会が「2026年改訂版 心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント」を公開しました。2018年版から8年ぶりの改訂で、食塩や水分の考え方、サルコペニアの評価、多職種の役割まで見直されています。速報として、心リハに関わる医療職が押さえたい点を5つに絞って紹介します(2026年10月24日時点)。

図1 当サイト作成。2026年改訂版 心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメントと、2025年改訂版 心不全診療ガイドラインの記載をもとに、当サイト独自の切り口で整理。
この記事は、当サイトが学習用に作成した非公式の紹介です。学会の公式見解ではありません。原本の文章・図表はそのまま掲載せず、当サイトで要点を整理しています。実際の運用では、原本、自施設の基準、医師の指示を優先してください。
何が改訂されたのか
ステートメントは日本心不全学会ガイドライン委員会の編集で、全85ページです。2018年版の考え方を引き継ぎながら、この8年間の知見と臨床の実態を反映して内容を組み直しています。
改訂の柱として、ステートメントは次の6点を挙げています。
- 超急性期から回復期、在宅まで、病期をまたいで切れ目なく栄養管理を行う
- 在宅・生活期の栄養管理を重要な柱の1つに位置づける
- 食塩と水分の管理の考え方を整理し直す
- 鉄をはじめとする微量栄養素の意義を見直す
- 多職種連携のあり方を、病期や職種ごとに具体的に示す
- 筋肉の量だけでなく質にも着目し、運動療法と組み合わせた栄養支援を考える
改訂全体に共通するのは、画一的な「制限」中心の指導から、一人ひとりの病態や病期、身体機能、QOLに応じた個別の管理へ切り替えようという考え方です。ステートメント自身は、この変化を「制限する栄養」から「支える栄養」へ、と表現しています。
ポイント1:食塩は「一律に厳しく」から「個別に適切に」へ
2025年改訂版の心不全診療ガイドラインは、食塩摂取量の数値目標を示していません。推奨は「過剰な塩分摂取を避け、個別性をふまえた塩分管理を考慮する」です。今回のステートメントも、この考え方に沿って食塩管理を整理しています。
ステートメントが求めているのは、一律に厳しく制限することではなく、患者ごとに適切な食塩管理を行うことです。具体的には、普段の食塩摂取量やうっ血の有無、既往歴、食欲の変化を確かめたうえで、適切な摂取量を指導します。減塩を厳しくしすぎて、栄養状態やQOLが損なわれないよう注意することも求められています。
ただし、減塩が不要になったわけではありません。厳しい食塩制限を検討した研究は主に欧米で行われたものです。日本人の平均的な食塩摂取量は約9〜10 g/日と多く、海外の結果をそのまま当てはめることには注意が必要とされています。高血圧や慢性腎臓病(CKD)を合併している場合などは、それぞれで示されている目標(6 g/日未満など)も参考にします。
現場で意識したいのは、食塩制限が食欲の低下につながっていそうな場面です。ステートメントは、慢性期にこうした状況がみられた場合の対応を、医師の役割として挙げています。管理栄養士と相談し、制限をゆるめることも選択肢に入れて食事内容を見直す、というものです。リハの場面で食事量の低下に気づいたら、チームで共有するきっかけになります。
私は循環器クリニックで理学療法士として働いています。当院では、医師の方針のもとで、理学療法士の私も塩分や食事量について患者さんと話す場面があります。手がかりにしているのは、定期的に確認している推定食塩摂取量です。減塩がうまくいっていない方には、まず普段の食生活をうかがい、加工食品や汁物、漬物を控えるところから一緒に考えるようにしています。
当たり前のことではありますが、検査の結果も食生活も患者さんごとに違い、関わり方には個別性が出ます。今回のステートメントを読んで、一人ひとりに合わせたオーダーメイドの関わりが、これまで以上に大切になると感じました。
ポイント2:水分制限も一律には行わない
水分についても、すべての心不全患者に同じように制限するのではなく、個別に判断する方針が示されています。判断の材料になるのは、症状や体液の状態、電解質の異常、併存疾患などです。高温多湿などの環境も含めて評価し、慎重に決めます。
患者が訴える「のどの渇き」も大切な手がかりとして尊重し、水分が多すぎも少なすぎもしない管理を目指します。ただし、高齢者は加齢によってのどの渇きを感じにくくなります。そのため2025年改訂版の心不全診療ガイドラインは、高齢者には適切な飲水支援を行うよう求めています。
一律に行わないということは、患者によっては制限が必要になる場合もあるということです。制限の有無や程度は、主治医の方針を確認してください。
ポイント3:心不全ステージで栄養の目的が変わる
ステートメントは、心不全ステージによって栄養療法のねらいが変わることを示しています。
- ステージA(心不全リスク)・ステージB(前心不全):高血圧、糖尿病、肥満などの危険因子への対策として、糖質・脂質・食塩を控えることを軸に、食事の内容を見直します
- ステージC(症候性心不全)・ステージD(治療抵抗性心不全):低栄養に陥りやすくなるため、「制限」中心から、必要な栄養を適切に補い、維持する方向へ考え方を変えます
ただし、ステージだけで機械的に決めるわけではありません。ステージA・Bでも、高齢の人やフレイルのある人では、年齢や身体機能に合わせた個別の栄養管理が重要とされています。また、ステージC・Dになっても、ポイント1で紹介した食塩管理が不要になるわけではありません。
ステージDは終末期の医療とも関わるため、食べる楽しみや患者さんのQOLに配慮して、柔軟に対応することが求められる場合もあります。
同じ「心不全の栄養指導」でも、ステージによって目指す方向が変わります。目の前の患者がどのステージにいるのかを、栄養の話をする前に確認しておくことが大切です。
ポイント4:体重やBMIだけでなく、筋肉と体組成をみる
BMIは、筋肉量や脂肪のつき方を正確には反映しません。ステートメントは、BMIだけで評価することには慎重さが必要だとしています。そのうえで重視しているのは、筋肉量、筋力(握力など)、身体機能(歩行速度など)を含めた多面的な評価です。栄養指標とも組み合わせて、総合的に判断します。
AWGS 2025でサルコペニアの診断が変わった
ステートメントでは、2025年に改訂されたアジアのサルコペニア診断基準(AWGS 2025)も紹介されています。主な変更点は次の3つです。
- 診断の対象年齢を50歳以上に広げた
- 確定診断には、低い筋力と少ない骨格筋量の両方がそろうことを求める
- 身体機能の低下を診断基準から外した
診断基準から外れたからといって、歩行速度などの身体機能をみなくてよいわけではありません。前述のとおり、ステートメントは筋肉量や筋力に加えて、身体機能も含めた評価を重視しています。年齢別・性別のカットオフ値は、原本の図で確認してください。
薬で体重が減るときも体組成に注意
GLP-1関連薬などの薬で体重を減らす場合について、ステートメントは体重の変化だけでなく、食事の摂取状況や体組成にも注意するよう求めています。そのうえで、必要に応じて栄養面の介入や運動療法を組み合わせるのが望ましいとしています。
体重の数字が順調に減っていても、それが脂肪なのか筋肉なのかは体重計だけではわかりません。だからこそ、運動療法を担う職種が、筋力や身体機能の変化もあわせて追うことが大切です。
ポイント5:理学療法士・作業療法士の役割が明記された
多職種の役割を述べた章には、理学療法士・作業療法士の項目があります。チームの中で、栄養管理と身体機能への介入を一体にしたリハビリテーションを行うことが求められています。
このうち理学療法士の病期ごとの役割は次のとおりです。
- 急性期:筋肉量の低下や廃用を防ぐため、循環動態をみながら、安全な離床と低強度の運動を段階的に進めます
- 慢性期:有酸素運動とレジスタンストレーニングを組み合わせた運動処方を行い、サルコペニアやフレイルの進行を抑えることを主な目標にします
作業療法士は、急性期には活動性と食欲を保つため、食事や整容、トイレといった日常生活動作の再獲得を支援します。慢性期には、身体活動量と栄養摂取を生活全体で整えられるよう、生活行動の見直しや活動量の調整、社会参加の支援を行います。
理学療法士・作業療法士には、栄養状態と身体機能・ADL・運動耐容能がどう関わっているかを評価し、リハビリテーションと栄養管理をつなぐ役割が期待されています。退院後は、外来や在宅で体重(筋肉量)・食事量・身体活動量の推移を、多職種で継続して確認します。
ステートメントでは、栄養評価は管理栄養士だけが行うものではなく、医師や看護師、リハビリテーション専門職など多職種が関わるものとしています。さらに、職種がそろわない施設では、ほかの職種が専門外の業務をカバーできるとされ、その例として理学療法士による栄養評価が挙げられています。
運動と栄養の組み合わせについて、ステートメントは病期に応じて個別化したプログラムが重要としています。一方で、そうしたプログラムの確立は今後の課題とされています。
運動処方の組み立ては心不全の運動処方、筋力トレーニングは心不全のレジスタンストレーニング入門で整理しています。高齢・フレイルの患者への心リハは歩行ガイド心リハもあわせてどうぞ。
当院では、毎回の体重測定に加えて、定期的に体組成計での測定も行っています。体重の数字だけでなく体組成もみられる環境だからこそ、理学療法士だから栄養のことはわからない、で終わらせず、今回のステートメントを日々の関わりに生かしていきたいと思います。
まとめ
- 食塩・水分は一律に制限せず、病態や併存疾患、食欲をみながら個別に考えます
- 体重やBMIだけでなく、筋力・筋肉量・身体機能を含めて栄養状態を評価します
- 理学療法士・作業療法士には、運動と栄養を結びつけてチームで患者を支える役割が求められています
原本は日本心不全学会のサイトで公開されています。評価ツールや数値の目安、職種ごとの役割の詳細は、原本のPDFで確認してください。
理解確認問題
問題1
外来心リハに通う82歳の慢性心不全の患者さんです。うっ血の所見は落ち着いていますが、退院時に始めた厳しい減塩で食事量が以前の半分ほどに減り、1か月で体重が2 kg減っています。2026年改訂版ステートメントの考え方に最も近い対応はどれですか。
- A. うっ血を防ぐため、食塩をさらに減らすよう勧める
- B. 食事量と体重の変化をチームで共有し、主治医と管理栄養士に、制限の緩和も含めた食事内容の見直しを検討してもらう
- C. 栄養の問題は運動療法と関係がないため、運動プログラムだけを進める
- D. 食塩管理は不要になったため、制限をすべてやめるよう伝える
正解と解説を見る
正解:B
ステートメントは医師の役割として、食塩制限が食欲の低下を招いていると考えられる場合の対応を挙げています。管理栄養士と相談し、制限をゆるめることも選択肢に入れて食事内容を見直す、というものです。さらに制限を強めるAは、栄養状態への悪影響に注意するという方針と合いません。食塩管理そのものは引き続き必要なため、Dも誤りです。理学療法士・作業療法士には栄養管理とリハを一体で進める役割が求められているため、Cも誤りです。
問題2
58歳の心不全の患者さんです。AWGS 2025の基準で、サルコペニアの確定診断に必要な組み合わせはどれですか。
- A. 骨格筋量の低下のみ
- B. 歩行速度の低下と骨格筋量の低下
- C. 筋力の低下と骨格筋量の低下
- D. 58歳は対象外のため診断できない
正解と解説を見る
正解:C
AWGS 2025では、低い筋力と少ない骨格筋量の両方がそろうことが確定診断の要件とされました。身体機能の低下は診断基準から外れたため、Bは誤りです。骨格筋量だけでは確定診断にならないため、Aも誤りです。診断の対象は50歳以上に広がったため、58歳も対象になり、Dも誤りです。
問題3
肥満を合併する心不全の患者さんが、体重を減らす薬物療法を始めて3か月で6 kg減量しました。理学療法士の対応として、ステートメントの考え方に最も近いものはどれですか。
- A. 体重が順調に減っているので、評価は体重だけで十分とする
- B. 食事の摂取状況や体組成も確認し、必要に応じて運動療法の併用を検討する
- C. 減量中は筋肉への負担を避けるため、運動療法をすべて中止する
- D. 減量をさらに進めるため、食事量を減らすよう指導する
正解と解説を見る
正解:B
ステートメントは、薬物療法で減量する際も、体重の変化だけで判断しないよう求めています。食事の摂取状況や体組成にも注意し、必要に応じて栄養面の介入や運動療法を組み合わせるのが望ましいとしています。理学療法士は、主治医や管理栄養士と情報を共有しながら、運動療法の併用を検討します。体重だけで判断するAは、BMIや体重だけでは筋肉量や脂肪のつき方がわからないという点で不十分です。運動療法をすべて中止するCや、独断で食事量を減らすDも、この考え方と合いません。
参考文献・出典
よくある質問
Q. 心不全の食塩制限は「6 g未満」ではなくなったのですか?
A. 2025年改訂版の心不全診療ガイドラインは、心不全全般に対する食塩摂取量の数値目標を示していません。ただし食塩管理が不要になったわけではありません。日本人は平均的な食塩摂取量が多いため、患者ごとに適切な管理を行います。高血圧や慢性腎臓病を合併している場合などは、6 g/日未満などの目標も参考にします。
Q. 理学療法士が栄養評価をしてもよいのですか?
A. ステートメントは、栄養評価の担い手が管理栄養士だけでなく、リハビリテーション専門職を含む多職種に広がっているとしています。また、関わる職種が限られる施設では専門外の職種がカバーできるとし、その例として理学療法士による栄養評価を挙げています。理学療法士・作業療法士には、栄養状態と身体機能のつながりを評価し、栄養管理とリハビリテーションを結ぶ役割が期待されています。
Q. 2018年版から何が変わりましたか?
A. 病期をまたいだ切れ目のない栄養管理、在宅・生活期の栄養管理、食塩と水分の考え方の整理、鉄などの微量栄養素、多職種連携の具体化、筋肉の量と質に着目した評価などが見直されています。
この記事を書いた人
心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士
循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。
- 理学療法士(臨床経験10年以上)
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 地域糖尿病療養指導士
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