心臓リハビリの禁忌・中止基準|開始前・運動中の判断
心臓リハビリテーションの安全基準は、運動を始める前の禁忌と、始めたあとの中止基準を分けて読むことが出発点です。運動負荷試験・CPXには固有の基準があり、通常の運動療法とは別に確認します。この記事では、ガイドラインにもとづき、判断する場面ごとに要点を整理します。

図1 当サイト作成。心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会、2021年改訂版)をもとに、判断する場面を独自に整理。個別の基準は本文と原典を確認してください。
まず3つの判断場面を分ける
「中止」の基準は、使われる場面ごとに分けて確認します。
- 通常の運動療法を始める前:絶対的禁忌・相対的禁忌・禁忌ではない状態を確認する
- 通常の運動療法を始めたあと:絶対的中止基準・相対的中止基準を確認する
- 運動負荷試験・CPX:検査固有の禁忌・中止基準を確認する
開始前の禁忌の確認と、運動中の変化の確認は、それぞれ必要です。中止基準の数値は運動中の判断に用い、開始前の可否は開始前の基準で確認します。
心リハを始める前に確認する禁忌
2021年改訂版の心血管リハビリテーションガイドラインは、「積極的な運動療法が禁忌となる疾患・病態」を絶対的禁忌と相対的禁忌に分け、禁忌ではない状態も示しています。
絶対的禁忌
絶対的禁忌として確認する代表的な病態は、次のように整理できます。
- 不安定狭心症、または平地をゆっくり歩く程度の軽い負荷(2 MET)で誘発される心筋虚血
- 過去3日以内に心不全症状が悪化した状態
- 心室細動や持続性心室頻拍など、血圧や循環が保てなくなるコントロール不良の不整脈
- 手術適応となる重症弁膜症、特に症候性大動脈弁狭窄症
- 閉塞性肥大型心筋症などの重症左室流出路狭窄
- 急性肺塞栓、肺梗塞、深部静脈血栓症
- 活動性の心筋炎、心膜炎、心内膜炎
- 急性の全身性疾患または発熱
- 急性大動脈解離
- 安全な運動実施を妨げる精神的・身体的障害
病名とあわせて、急性・活動性・症候性・コントロール不良といった条件を確認します。慢性心不全や不整脈がある場合も、上に挙げた条件に該当するかを確認します。
相対的禁忌
相対的禁忌には、状態と危険性を踏まえて判断する次のような病態が含まれます。
- 重篤な合併症の危険が高い急性心筋梗塞後2日以内(広範な貫壁性前壁梗塞やST上昇持続など)
- 左冠動脈主幹部狭窄
- 無症候性の重症大動脈弁狭窄症
- 高度房室ブロック
- 血行動態が保たれていても、コントロール不良の頻脈性・徐脈性不整脈
- 最近の脳卒中または一過性脳虚血発作
- 十分な運動負荷を行うことが難しい精神的・身体的障害
- 貧血、電解質異常、甲状腺機能異常など未治療の全身性疾患
「発症後2日以内」「最近」などの条件は、記載された期間・状態のまま確認します。運動再開の判断とは分けて読みます。
禁忌ではない状態
次の状態は、それだけでは積極的な運動療法の禁忌ではありません。
| 状態 | 読み方 |
|---|---|
| 高齢 | 年齢だけを理由に禁忌とはしない |
| 左室駆出率の低下 | 左室駆出率低下だけを理由に禁忌とはしない |
| 血行動態が保たれ、心拍数が良好にコントロールされた不整脈 | コントロール不良の不整脈とは分ける |
| 静注強心薬使用中で血行動態が安定している状態 | 薬剤使用中という事実だけでは禁忌ではない |
| 補助人工心臓(LVAD)またはペースメーカ、ICD、CRT-Dなどの植込み型心臓電気デバイス(CIED)装着 | 機器装着だけでは禁忌ではない |
その状態だけでは禁忌にならない、という意味です。運動の可否は、ほかの禁忌に当たる条件もあわせて確認します。
運動開始後に確認する中止基準
運動療法を開始したあとは、絶対的中止基準と相対的中止基準を分けます。
| 観察項目 | 絶対的中止基準(直ちに中止) | 相対的中止基準(中止を検討) |
|---|---|---|
| 本人・状況 | 患者が中止を希望した/転倒、外傷、機器故障などの事故が起きた | 指示を守れない、転倒リスクが生じた、その他運動継続が難しい状態 |
| 意識・症状 | 危険な症状を把握できない状態、または意識状態の悪化がある/強い胸腹背部痛、てんかん発作、意識消失、低血圧、強い関節・筋痛などの重篤症状がある | 同一またはより低い運動強度で、胸部自覚症状、低血糖、不整脈、めまい、頭痛、下肢痛、強い疲労・倦怠感、関節・筋痛などが悪化 |
| 血圧 | 低血圧などの重篤症状、バイタルサインの急速な悪化 | 収縮期血圧80 mmHg未満、収縮期血圧250 mmHg以上、または拡張期血圧115 mmHg以上 |
| 心拍・不整脈 | 心停止、高度徐脈、心室頻拍・心室細動などの致死的不整脈がある、または疑われる | 心拍数40回/分以下/新たな不整脈 |
| 心電図 | Q波のない誘導で1 mm以上のST上昇が出現した。ただしaVR・aVL・V1誘導を除く | 1 mm以上のST低下 |
| 酸素化 | ― | SpO2が90%未満、または安静時から5%以上低下 |
相対的中止基準が2項目以上重なった場合は、絶対的中止基準として直ちに中止します。 一方、ガイドラインは相対的中止基準について、作成時点で十分なコンセンサスがないことも明記しています。単独の相対的な所見は、相対的中止基準として判断します。
患者本人の中止希望は、理由にかかわらず中止する基準です。モニター値とあわせて、意思表示や事故も絶対的中止基準に含まれます。
血圧基準は「どの場面の値か」を確認する
血圧の基準値は1つではありません。いつ測った値かで、見る表が変わります。心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版)、高血圧管理・治療ガイドライン2025、慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)の記載を、場面ごとに整理します。
| 場面 | 値 | どう使うか |
|---|---|---|
| 運動療法を始める前(禁忌の表の注記) | 収縮期血圧200 mmHg超または拡張期血圧110 mmHg超 | 積極的な運動療法の絶対的禁忌に含める重症高血圧の目安 |
| 高血圧の患者の運動開始 | 診察室血圧180/110 mmHg以上(Ⅲ度高血圧) | 血圧をコントロールしたあとに運動療法を開始する |
| 運動療法中 | 収縮期血圧250 mmHg以上、または拡張期血圧115 mmHg以上 | 相対的中止基準 |
| 運動負荷試験の前 | 収縮期血圧200 mmHg超または拡張期血圧110 mmHg超 | 運動負荷試験の相対的禁忌 |
| 運動負荷心電図の最中 | 収縮期血圧250 mmHg以上、拡張期血圧120 mmHg以上 | 中止基準 |
Ⅱ度高血圧の拡張期血圧は、心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2021年改訂版)の90〜99 mmHgという記載と、高血圧管理・治療ガイドライン2025の100〜109 mmHgという記載に差があります。この記事では、現行分類の100〜109 mmHgを使います。
2021年改訂版の心血管リハビリテーションガイドラインの事故防止の項には、診察室血圧180/110 mmHg以上のⅢ度高血圧を運動療法の禁忌とする記載があります。高血圧管理・治療ガイドライン2025では、Ⅲ度高血圧は血圧をコントロールしたあとに運動療法を開始するとしています。現在の高血圧分類と高血圧患者の運動開始判断は、より新しい高血圧管理・治療ガイドライン2025を優先します。
禁忌の表の注記にある200/110 mmHg超は、積極的な運動療法が禁忌となる疾患・病態の判断に用います。一般的な運動開始可能血圧、運動中の中止基準、運動負荷試験の基準は、それぞれの場面に対応する記載で確認します。
運動負荷試験・CPXの基準は別に扱う
運動負荷試験は、通常の心リハ運動療法とは別の禁忌・中止基準を持ちます。ここでは混同を防ぐため、違いが表れやすい例を抜粋して示します。
試験開始前の禁忌
運動負荷試験の絶対的禁忌には、急性心筋梗塞発症後2日以内、内科治療で安定していない不安定狭心症、コントロール不良の症候性心不全、急性肺塞栓・肺梗塞、急性心筋炎・心膜炎、急性大動脈解離などが含まれます。
一方、収縮期血圧200 mmHg超または拡張期血圧110 mmHg超の重症高血圧は、運動負荷試験では相対的禁忌に含まれます。この値は、通常の運動療法における開始前の高血圧基準と分けます。
試験中の中止基準
運動負荷心電図では、被検者が中止を求めた場合のほか、水平型または下降型で0.1 mV以上のST低下、0.1 mV以上のST上昇、収縮期血圧250 mmHg以上、拡張期血圧120 mmHg以上、心電図・血圧モニターの作動不良などが中止基準に含まれます。
通常の運動療法では拡張期血圧115 mmHg以上が相対的中止基準ですが、運動負荷心電図では120 mmHg以上です。似た数値でも、実施している手技に対応する基準を使います。
臨床で混同しやすいポイント
判断に迷ったときは、まず「いま、どの場面の基準を見ているか」を確認します。
- 開始前か、運動中か:禁忌は開始前、中止基準は運動開始後の判断です。
- 通常の運動療法か、運動負荷試験か:同じ病態や似た数値が出ても、基準の系列は別です。
- 絶対的か、相対的か:単独の相対的中止基準は中止を検討する基準です。運動療法中に2項目以上が重なった場合は絶対的中止基準として扱います。
- 「禁忌ではない」か、「無条件に可能」か:前者は、その状態だけを理由に禁忌としないという意味です。
この順序で文脈を確認すると、数値だけを拾って別の場面へ当てはめる誤りを避けやすくなります。
まとめ
- 心リハの安全基準は、開始前の禁忌、運動中の中止基準、運動負荷試験・CPX固有の基準に分けて読みます。
- 絶対的・相対的の区分と、対象条件を保ったまま判断します。「禁忌ではない」は無条件に運動可能という意味ではありません。
- 高血圧の200/110超、180/110以上、運動中の250/115以上、運動負荷心電図中の250/120以上は、それぞれ適用場面が異なります。場面ごとに対応する基準を確認します。
理解確認問題
問1
通常の心リハ運動療法を始める前に確認するのはどれでしょうか。
- 運動負荷心電図の中止基準
- 積極的な運動療法の禁忌
- 運動中の相対的中止基準だけ
- 予測最大心拍数の到達率だけ
正解と解説を見る
正解:2
禁忌は、通常の運動療法を開始する前の判断です。開始後の中止基準や、運動負荷試験固有の基準とは分けます。
問2
ガイドライン上、それだけでは積極的な運動療法の禁忌ではない状態はどれでしょうか。
- 活動性心筋炎
- 急性大動脈解離
- CIED装着のみ
- 過去3日以内の心不全症状悪化
正解と解説を見る
正解:3
ペースメーカ、ICD、CRT-DなどのCIED装着は、それだけでは禁忌ではありません。機器装着だけで無条件に運動可能という意味ではない点にも注意します。
問3
通常の運動療法中、収縮期血圧が252 mmHgに上がった。ほかの異常はない。正しいのはどれか。
- 絶対的中止基準に当たるので直ちに中止
- 相対的中止基準に当たるので中止を検討する
- 運動負荷試験の基準では問題ないので継続
- 開始前の禁忌の基準なので運動中は考えなくてよい
正解と解説を見る
正解:2
通常の運動療法中の収縮期血圧250 mmHg以上は、相対的中止基準です。この設問ではほかの異常がないため、中止を検討します。ほかの相対的中止基準も重なり、2項目以上になった場合は、絶対的中止基準として直ちに中止します。運動中の判断には、通常の運動療法中の基準を使います。
参考文献・出典
- 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会、2021年改訂版)
- 高血圧管理・治療ガイドライン2025(日本高血圧学会、2025年)
- 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(日本循環器学会、2018年改訂版)
この記事を書いた人
心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士
循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。
- 理学療法士(臨床経験10年以上)
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 地域糖尿病療養指導士
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