心不全のレジスタンストレーニング入門
心不全患者を担当すると、「歩行や自転車は処方できても、筋力トレーニングの負荷はどう決めればよいのか」と迷いやすいものです。
結論から言うと、心不全患者のレジスタンストレーニングは、病態の安定性と禁忌を確認し、低強度から個別に導入するのが基本です。重さや回数だけでなく、開始前評価、呼吸、フォーム、症状の観察までを一つの処方として考えます。
この記事では、心リハ初学者のPT・Nsを対象に、基礎から臨床で使うまでの流れを整理します。
この記事は学習用の一般的な整理です。実際の運動処方は、患者ごとの病態評価と医師の指示、自施設の基準に従ってください。
レジスタンストレーニングとは
レジスタンストレーニングは、筋肉に抵抗を加えて行う運動です。抵抗には、次のようなものを利用できます。
- ダンベルや重錘
- ウェイトマシン
- ゴムバンドやゴムチューブ
- 自分の体重
大切なのは、重い器具を使うことではありません。患者の状態に合わせて抵抗を調整し、正しい動作を繰り返すことが中心です。ウェイトマシンの使用が難しい高齢者では、ゴムチューブなども選択肢になります。
心不全患者で考える理由
心血管疾患リハビリテーションガイドラインでは、筋力低下やフレイルを認める患者に、低強度からレジスタンストレーニングを行うことが推奨されています。
さらに心不全診療ガイドライン2025では、フレイル・サルコペニアを合併する高齢者、またはデコンディショニングが進んだ心不全患者の回復期に、レジスタンストレーニングとマルチコンポーネント運動を行うことが推奨されています。
つまり「心不全だから全員に同じ筋トレを行う」のではなく、筋力や身体機能の低下を評価し、必要な患者に合わせて組み立てるという考え方です。
最初に確認するのは負荷量ではない
初学者は「何kgにするか」「何回行うか」から考えがちですが、その前に確認する項目があります。
- トレーニングの目的
- 適応と禁忌
- 医師の指示とリスク情報
- 実施を妨げる症状や併存疾患
- 関節可動域とおおまかな筋力
- 姿勢と開始位置、無負荷で確認した運動方向
この順序を飛ばして、1RMやBorg指数だけで処方を決めないことが重要です。
非代償期に標準処方を当てはめない
代償されていない心不全は、通常のレジスタンストレーニングの絶対禁忌に含まれます。
また、回復期〜維持期で相対的禁忌に該当する場合やNYHA心機能分類IV度の場合は、運動耐容能や身体機能の改善を目的とした標準的な運動療法を控えます。このような患者では、自覚症状の悪化に注意しながら、低強度のレジスタンストレーニングやADL練習など、デコンディショニングを最小限に抑える介入が中心になります。
ここでのポイントは、「運動する・しない」の二択にしないことです。標準的なトレーニングを行える状態か、より低強度の介入にとどめる状態かを分けて考えます。
FITTで処方を組み立てる
レジスタンストレーニングも、頻度・強度・時間・種類のFITTで整理できます。
| 項目 | 回復期心リハで使う一般原則 | 初学者が確認すること |
|---|---|---|
| 頻度 | 連続日を避けて週2〜3回 | 前回からの疲労や症状が残っていないか |
| 強度 | 一般的には1RMの40〜60% | 心不全だけに限定した値ではないため、安定性と個別評価を前提にする |
| 導入時 | 30% 1RMまたはRPE 12未満のプレトレーニングという方法がある | 正しいフォームと運動の感触を優先する |
| 反復回数 | 慢性心不全の運動プログラム例では1種目10〜15回 | 顕著な疲労なく反復できるか |
| セット数 | 同プログラム例では1〜3セット | 低い運動量から始め、反応をみて調整する |
| 種類 | 大きな筋群を中心に、重錘・マシン・ゴム・自重など | 関節可動域、筋力、姿勢と開始位置に合う方法を選ぶ |
頻度と強度は、安定した回復期の心血管疾患患者に対する一般原則です。反復回数とセット数は、慢性心不全患者の運動プログラム例です。いずれも、すべての心不全患者へそのまま当てはめる数値ではありません。
1RMとは
1RMは、全可動域で1回は挙上できるものの、2回はできない負荷です。処方では、その何%に相当するかを使って強度を表します。
ただし、1RM測定だけが負荷設定の方法ではありません。導入時には、顕著な疲労なく10〜15回反復できる強度、RPE 11〜13から始める方法も示されています。
ここで、RPE 11〜13は開始負荷を決める目安です。一方、RPE 12未満は、正しい方法や運動の感触を覚えるプレトレーニング段階の目安として示されています。同じRPEでも、使われる段階を分けて理解します。
数値は処方を共有するための道具です。フォームが崩れる、呼吸が止まる、症状が出る場合は、設定した数値が範囲内でも見直します。
導入は「動作を覚える段階」から
レジスタンストレーニング導入時には、いきなり目標負荷まで上げる必要はありません。ガイドラインには、30% 1RMまたはRPE 12未満で、正しい方法や運動の感触を覚えるプレトレーニングから始める考え方が示されています。
導入初期は、次の順で確認すると整理しやすくなります。
- 無負荷または低負荷で運動方向を確認する
- 息を止めずに反復できるか確認する
- コントロールした速度で、正しいフォームを保てるか確認する
- 顕著な疲労なく反復できる負荷を探す
- 症状と反応を確認して次回の処方を決める
慢性心不全患者では、低強度から開始し、およそ2週間をかけて時間や強度を徐々に増やすことが望ましいとされています。最初から重量を増やすのではなく、まず無理なく反復できる回数を確保し、その後に負荷を上げます。
実施中は呼吸・フォーム・症状を観察する
呼吸とフォームを観察する
心疾患患者のレジスタンストレーニングでは、関節運動を伴う動的な運動を用います。関節を動かさず力を入れ続ける等尺性収縮は、息こらえによるバルサルバ効果が生じやすいため推奨されません。
実施中は、次の声かけが基本です。
- 息を止めない
- 力を出す局面で、ゆっくり息を吐く
- コントロールした速度でリズミカルに動かす
- グリップは軽く握る
- 正しいフォームを保つ
PT・Nsは、運動方向や負荷だけでなく、呼吸、フォーム、症状も同時に確認します。
中止するサインを共有する
レジスタンストレーニング中は、特に次の変化がみられた場合に運動を中止します。
- めまい
- 不整脈
- いつもと違う息切れ
- 狭心症のような不快感
中止後は、患者の状態を評価して施設の基準に沿って報告します。
患者に合わせて実施フローを調整する
フレイル・サルコペニアでは少量頻回を考える
身体機能が低下した高齢者や、フレイル・サルコペニアを合併する心不全患者では、単純に重さを増やすことを目標にしません。
心不全診療ガイドライン2025では、少量頻回を原則としたレジスタンストレーニングを行い、バランス運動や動作練習などを組み合わせたマルチコンポーネント運動が示されています。
この場合の目標は、「スクワットを何kgで行えたか」だけではありません。立位や歩行など、患者が必要とする動作を確認し、それにつながる運動を組み合わせます。
初学者が使える実施フロー
臨床では、次の流れで整理すると抜けを減らせます。
1. 今日の適応を確認する
病態が安定しているか、禁忌に該当しないか、医師の指示に変更がないかを確認します。
2. 身体機能を確認する
関節可動域、おおまかな筋力、姿勢と開始位置を確認し、使う筋群と方法を決めます。
3. 低負荷で動作を確認する
呼吸を止めず、コントロールした速度と正しいフォームで反復できるかを見ます。
4. 負荷と回数を処方する
1RM、RPE、反復できる回数を組み合わせ、顕著な疲労なく実施できる範囲から始めます。
5. 実施中の変化を観察する
呼吸、フォーム、症状を確認し、中止サインがあれば継続しません。
6. 次回の処方へつなげる
負荷量だけでなく、実施した種目、回数、セット数、RPE、症状、フォームの変化を記録します。慢性心不全では、低強度から時間や強度を段階的に上げます。
まとめ
- 心不全患者のレジスタンストレーニングは、病態の安定性と禁忌の確認が先。
- 筋力低下やフレイルを認める患者では、低強度からの導入が推奨される。
- 回復期心リハの一般原則として週2〜3回、1RMの40〜60%が示され、慢性心不全の運動プログラム例では1種目10〜15回・1〜3セットとされる。ただし一律には当てはめない。
- 導入時は、30% 1RMや低いRPEから動作を覚える方法がある。
- 息こらえを避け、力を出す局面で息を吐く。
- めまい、不整脈、いつもと違う息切れ、狭心症様の不快感があれば中止する。
- フレイル・サルコペニアでは、少量頻回とマルチコンポーネント運動を考える。
理解確認問題
問1
通常のレジスタンストレーニングの絶対禁忌に含まれるのはどれでしょうか。
- 安定した回復期心不全
- 代償されていない心不全
- ゴムバンドを使用している
- 1RMを測定していない
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正解:2
代償されていない心不全は絶対禁忌に含まれます。負荷量を決める前に、病態の安定性と適応・禁忌を確認します。
問2
レジスタンストレーニング中の呼吸として適切なのはどれでしょうか。
- 力を出す局面で息を止める
- 全セットが終わるまで呼吸を浅くする
- 息こらえを避け、力を出す局面でゆっくり息を吐く
- 呼吸よりも反復回数を優先する
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正解:3
心疾患患者では息こらえを避け、力を出す局面でゆっくり息を吐きながら行います。
問3
慢性心不全患者への導入で適切な考え方はどれでしょうか。
- 初回から目標負荷の上限で行う
- 低強度から開始し、時間や強度を段階的に増やす
- 毎日連続して行う
- RPEや症状は確認しない
正解と解説を見る
正解:2
慢性心不全患者では低強度から開始し、およそ2週間をかけて時間や強度を徐々に増やすことが望ましいとされています。
参考文献・出典
よくある質問
Q. 心不全患者にレジスタンストレーニングを行ってよいですか?
A. 心不全という診断だけで一律に禁止されるわけではありません。筋力低下やフレイルを認める患者では低強度からの導入が推奨されています。一方、代償されていない心不全は絶対禁忌に含まれるため、病態の安定性と適応・禁忌を確認してから個別に判断します。
Q. 1RMを測定できない場合は負荷を決められませんか?
A. 1RMだけが設定方法ではありません。ガイドラインでは、導入時にRPEを用いる方法や、顕著な疲労なく10〜15回反復できる負荷から始める方法も示されています。数値だけで決めず、フォーム、呼吸、症状を同時に確認します。
Q. レジスタンストレーニングは毎日行いますか?
A. 回復期の心血管疾患患者に対する一般原則では、連続日を避けて週2〜3回とされています。フレイルやサルコペニアを合併する心不全患者では、少量頻回を原則にした個別的なプログラムが必要です。
この記事を書いた人
心リハラボ管理人 臨床経験10年以上の理学療法士
循環器クリニック勤務の現役理学療法士。心臓リハビリテーション・運動療法を専門に、臨床で学んだことを整理して発信しています。心臓リハビリテーション指導士(2027年または2028年に受験予定)を目指して学習中です。
- 理学療法士(臨床経験10年以上)
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 地域糖尿病療養指導士
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